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中編
裏側の闇。‐1
 


 翌日、理事との面会で例の話と提案を告げると、彼は申し訳なさそうな目を隠すことなくそれを受理した。
 いつも通りに過ごしながらでないと怪しまれるため、時間を作る必要がある。
 槙野は手伝ってくれるらしいので、俺より自由に動けるぶん、かなり頼ることになるが槙野は気にしていない。


 風紀にはまず委員長にだけ詳細を告げることにした。


 昼休みに槙野と風紀室前で合流し、委員長しかいない室内に入ると奴はソファでふんぞり返っていた。
 最初は背筋を伸ばしているのかと思ったが、ただ天井のシミを眺めているだけらしい。毎度のことながら飽きないのだろうか。



「───よう、二人揃って来るとはな。結婚報告かなんかか?」
「あんたが頭を悩ませている薬についてだ」
「いやお前まずあいつの発言に突っ込めよ」



 槙野の言葉に吹き出した委員長は腹を抱えて笑いだした。
 結婚報告云々は冗談だと分かってるからどうでもいい。単刀直入に話の主旨を伝えると、委員長は座り直してから真っ直ぐこちらを見る。

 向かい側のソファに座りしばらく無言でいると、委員長は俺と槙野を交互に見てから「ふうん」と息を吐き出した。



「被害にあったのは?」
「俺」
「加害者は」
「長岡文也」
「対処は」
「これ」
「おい」



 言いながら指をさしたら槙野に手を叩かれた。
 真面目な顔をしていた委員長はまた吹き出すと、コーヒー淹れてくる、と席を立って給湯場に向かう。
 隣で槙野が溜め息を吐いた。



「…これ呼ばわりかよ」
「流れ的に」
「どこをどう流れてあの呼び方になるんだ」
「……」
「無視かよ」
「呼びづらかっただけだ」
「なんで」
「さあ」
「朔」
「……」
「痴話喧嘩すんなよ」
「してねぇよ」
「ほら、コーヒー飲んで落ち着け」
「悪いな」
「はあ…」



 脱力する槙野を傍らに再び委員長と向かい合う。
 しばらくコーヒーを飲んでいた委員長の目は面白そうに輝いている。ああ、面倒臭くなる。



「しかしまあ、お前が槙野に託すとはねえ」
「槙野だから託した」
「ぶ…っ」
「なに吹いてんだよ槙野、きたねぇな」
「それより本題」
「お前は随分あっさりな」
「聞かれたくない」
「はいはい、照れ屋な朔ちゃんには対処のことは詳しく聞きませんよ」
「は、お前照れ屋なの」
「委員長、本題を聞く気あるか」
「あるある」
「また無視かよ」
「朔ちゃん照れ屋だから、黙ったら照れてんだっておもっいて!」



 いい加減焦れてきて、テーブルの下で委員長の脛を蹴った。
 効果は抜群らしく、ついでにテーブルに膝をぶつけた委員長は左足を抱えるように擦る。



「あーあ、暴力的なのが懐かしい」
「ならもう一度受けるか」
「無理ごめん。お前の足強すぎ」



 ちゃんと聞きます、と姿勢を正した委員長に思わず溜め息を吐いた。
 槙野が何か聞きたそうにしているが、今それを受けるとまた脱線すると思う。だから放置する。



 学園祭当日に起きた事を掻い摘まんで話すと、委員長は眉を寄せてコーヒーを飲む。
 外界からの来客もいて、なにが起きるか分からない学園祭では風紀の警備がかなり厚くなる。
 普段どこから流れてくるか未だ分からない取引が、直接行われた可能性を示唆しているようにも思えた。
 厳戒体勢でもすり抜けられたかもしれない、という予想が委員長にはあるだろう。

 あれを持っているのが長岡文也だけとは限らないし、それ以外のものもまだ出回っていると見て間違いはないと言える。
 ああいう薬物の使用の負担は身をもって知ったが、あれを何かを成すために誰かに使用する。もしハマってしまえば、麻薬となんら変わらない。
 俺は二度と使いたいとは思わないが、そう考えるやつも居ないとは限らない。


 

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