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04
 


「お前の暇潰しには付き合ってられん!」


 ぐいぐいと肩を押しながら勢いが口を動かし声を発し、言葉を作っていく。
 暇潰しとかどうとかなんて正直考えてなかったけど多分心のどっかで、そうなんじゃないかって思ってたのかもしれない。

 自分の声で言葉が放たれているのに、なんて勝手な事を言ってんだと客観的になってる俺は、冷静さが足りないせいなのか。
 はたまたこの黒川のせいなのか。



「……暇潰し?」


 その声に、反らしていた目が一瞬にして黒川を捉える。
 今まで聞いたことがない、つってもたかが数日の関わりだけど、そんな声が出るのかってくらいの重低音だと思った。

 じっと見つめてくる眼に、なにも言えなくなる。


「いや……」
「暇潰しだとか思ってたのか?」
「………」


 傷付けるような言葉だったのか。
 黒川がどんな人間か俺は知らないし、どんな性格でどんな好き嫌いがあるのかも数日で理解するには不可能なほどその量は膨大だ。

 だけどそれでも俺はそう思った。
 怒りを含んだ目は、気のせいとか思い込みとか嘘なんかじゃないんだってこと。



「……ごめ、ん…」
「……」


 膝立ちだった黒川は今や尻をついて座ってる。
 眼をそらすことはなく、なにを言うわけでもなく、ただ見てる。
 せめてなにか言ってほしい。怒ったって構わないんだ、無言よりは。


「俺ね、一目惚れしたんだ」
「………はい?」


 神妙な面持ち、ではなくさっきと変わらない真顔で黒川は突然言い出した。
 お陰で転けそうになりましたぜ。


「初めてそんなんなって、一目惚れってこういうやつかって分かった」
「……」


 なんだ、急に。
 なんの話をしているだ。いつの誰との話だ。
 あんまり聞きたくない。


「俺みたいなヤツが一目惚れとか、自分でも信じらんなかったんだけどさ」
「……ん」
「たかだか数日の関係でも、日増しに引き込まれていくの気付くくらい」


 なんだ、なんか恥ずかしくなってきた。




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