短編集(~2019) 04 立ち上がり、話しかけてきた女子とさりげなく教室から出ていく友人を見送る。 ああいったことに慣れているらしい友人は、誰の気にも留まらずに場を離れる事が出来るように練習したんだ、といつだか言っていたのを思い出した。 どんな練習だよ、と心中で突っ込んだ。 当番が給食を盛る準備をしている間に、生徒たちはいくつかのグループになり机を動かしている。 それをぼんやり見る僕は、いつも何もしないまま、友人が机を横に向けて、友人の横顔を見るような変な形のまま給食を食べる。 給食を取りに並ぶ生徒たちを見つつ、中間あたりで前に向かうと、丁度前のドアから友人が現れ、僕の後ろにそのまま並んだ。 「おかえり」 「ただいま」 ちょっと目をやり呟くと、当たり前に返ってくる言葉。 実際は何の話だったのかは聞かないし、友人も言わない。それは相手を思ってなのかはわからないけど、聞く理由もないから今まで聞いたことがなかった。 机に戻り、いつものように机を動かした友人を前に、席に座る。 いただきます、と言えば友人も同じように言った。教室のざわめきで、自分たちにしか聞こえないだろう。 「……やっぱ甘いな」 「でも好きなんでしょ」 カレーを一口食べて頷く友人を視界に捉えつつ、牛乳パックを手に取る。 まるで確認しているみたいだ、と自分にあきれた。 「春樹の作ったカレーのが好き」 「市販ルゥの味じゃん」 ただ辛さや風味の違いはあるが、味自体は同じものを使えば誰が作っても同じだ。 時々遊びにくる友人は何度か夕食を食べているが、どうやらカレーがお気に入りのようだ。 「愛情だよ、愛情」 「……ふうん」 あいじょう。 別に意識して愛情を込めているわけではなかったが、なにか変わるのか。 というか平然と真顔でそんなことを言う中学生を、友人以外に見たことがないのだが、そこは気にしない方がいいのだろうか。 END -------------------- そして自分に対する友人の愛情を知る。 学校の、黄色みのあるカレーは好きだった。 [←][→] [戻る] |