短編集(~2019)
02
窓の外に向いていた視線を前に移動させると、教師が黒板に字を書いている。そして少しずつ斜めっている字を見ながら、それをノートに写している生徒。自分もその一人だけど、シャーペンは動いていないし、ノートも中途半端に文章が途切れている。
もう少ししたら、その途切れた先の文章が消されて上書きされ、写せなくなるのはわかっているのに、シャーペンを持つ手はふらふらと揺れているだけ。
黒板の上に掛けてある時計を見る。もうすぐこの授業に与えられた時間はなくなり、タイムアップでチャイムが鳴る。そしたらもう完全に自分のノートは文章が途切れたまま終わりだ。
他の生徒のを見せてもらえばいいのだが、いかんせん自分の中でそれはやりたくないことだった。
ゆっくりと、癖になってしまったクラスメート観察を終えたところで、やっと腕を動かして筆記を再開した。
いつだか、きれいだねと言われた見慣れた自分の字を書いていく。
丁度、最後の字を書いた時にチャイムが鳴った。その瞬間に物音や喋り声がボリュームを一気に上げるのだから、それも不思議な現象だ。
ノートを鞄に仕舞っていると、コツ、と机が叩かれた。目線を上げれば前の席の友人が体を横に向けて肘を僕が使用している机に置いていた。
「まーた、現役中学生らしくないこと考えてんだろ」
「君がその現役中学生らしくないのと同じさ」
「実年齢いくつよ?」
「戸籍上十五歳の中三です。何回聞くの」
返答が面白いのか、なん回目かの質問になん回目かの返答をする。飽きないのか気になる。
戸籍上や保険証に記されている生年月日は現在十五歳の中学三年生であることを証明しているのだから、それ以外に答えようがない。
それを分かっていながら聞いてくるのだから、他に聞くことがないのか。
というか、僕を中学生じゃないとか言ってくる友人こそ、その現在中学生らしくないのだから、何とも言えない。
それ以前に現役中学生らしくってなんだろう。
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