短編集(~2019)
05
「……誉さん?」
「退屈なんだろ。一緒にいろ」
「いやいやいや意味わからんて」
確かに退屈であるが。そんな理由で引っ越せるか!
くっつき気味の誉の体を押せば、素直に身を引く。そして眉間にシワ。
「…いきなりそんなこと言われても、素直に頷けるわけなかろうがよ」
「前にも言ったぞ」
「あれ本気だったのかお前」
地下貸せ二階貸すってアレが。
どうやらマジだったらしく、真顔でうなずく誉さん。
「なんでオレ?」
「悪いか?」
「いやそうじゃなくて、」
はっきり理由が知りたかっただけ。いつもそうやって言わないから、はぐらかして言わないから。
なんか、そんなことを思っている自分自身に驚いてなにを言っているのか理解が出来なくなってくる。
「彼女くらい作れよー」
「いらん」
「好きなやついないのかお前」
「お前がいる」
「───おん?」
いまなんと?
ちょっとよくわからなかったー、なんて笑えば、誉は相変わらずな真顔で。
「俺はお前がいればいい」
一瞬、文字通り頭が真っ白になった。
なんと?え、なにが起きた?
「りく、」
ぱちり、瞬きをしたら、視点があってなかった事に気づいて。
近距離の誉が、そこにいる。
「───…ッ、」
どういう、意味だ。
それを考えているのに、答えが出てこない。ひとつしか出てこない。
「お前、ばか?」
「りくより頭は良いが」
「そういうこっちゃねぇよ」
いつも通りの突っ込みで頭が正常に戻ったみたいで、意識がはっきりしたうえ、体に熱がこもっていく感覚がした。
不快感はなかった。これっぽっちも。なぜだか、オレは知っているような気がしたけれど、曖昧なままにしておくことにした。
だって。
「お前顔真っ赤」
「うっさい黙れヘンタイ!」
「なんだと」
「ぎゃふ!」
ぐわしっ、と脇腹を捕まれ奇声が飛び出し、思わず笑った。
ODは、やめられそうだ。
END
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そして発言通り数日後に引越し。
退屈から逃れるための自傷。
その退屈さを満たすのは。
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