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短編集(~2019)
04
 

 精神的にどうこうなっているわけではない。
 切ることはただの好奇心で始めた。切ったら自分の内面はどうなるのだろうか、なんてどうでもいい好奇心。ODをしたらどうなるのか、という好奇心。

 かといって死にたがりではない。世界に絶望しているわけでも見下しているわけでもなく同情を誘うわけでもない。
 ただひたすらな好奇心が生んだ、自らを傷付けるという行為。それをしている人間の気持ちが分かるのかという好奇心。
 まあ、わかるわけないが。
 いつの間にかクセになって、今や日課になってしまった切る行為。時々OD。

 誉にとって、人を救う立場の自分の幼なじみがこんなことをしている事実が嫌なことなのか。


「……とりあえずODは控えるよ」
「ああ」


 誉は、自分のことをあまり話さない。自分の気持ちとか、中身を。どう思っているのか、なにを考えた結果のことなのか。
 だから、昔から不思議だった。


「なんで誉は、こんな冴えないオレと長々関わってんの?得なくね」


 ただの人並みであるオレと、秀才の誉。絡んでくるのはいつだって誉から。気づけば何年も一緒にいる。


「打算的だな、お前は」
「うん?」
「損得なんて、自分自身が決めることだろう。お前は俺と関わっていることの損得を考えるのか?」
「いや、考えないけど」


 得をするから関わる。そういう人間が、誉の立場の人間なら周りに沢山いると聞いたことがある。利益になるから、とか。


「オレは、お前がお前だから一緒にいる」
「……そうか」


 だけど、人間は無意識に打算的になる。損ばかりをする人生を嫌う。そりゃあそうだ。泣く泣く生き続けるのは相当精神力がいるだろうな。
 そう考えたら、人間って不憫だよな。無意識にってもともとそう組み込まれているわけだし。損得かあ。


「りく、ここに住めば」
「突拍子もなさすぎるよ誉さん」
「部屋ならあるし」
「聞いてます?」
「一人暮らしだろ」
「…誉さん?」
「今週中に引っ越すか」
「は?」


 いきなりの俺様具合がパネェ。
 意味わからん、と誉を見れば、ばっちり目があった。
 というか、ちかい。


 


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