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短編集(~2019)
02
 

 唯一それを知る誉は、何年か前にODして夜中にぶっ倒れた時に運ばれた病院がここで、当時夜勤で病院にいた医者が誉だったわけで。もちろんがっつり二の腕の傷を見られたわけで。
 翌日目覚めたオレに待っていたのは誉からの問い詰めだった。


「お前今日飯は?」


 さらさらとペンを走らせながら誉が言う。カルテは英語で書かれていてまったく読めん。


「寝起き直行」


 真顔で言ったら、ボードで頭を叩かれた。いたい。


「昼飯、食わしてやるよ」
「なにが望みだ」


 にやりと笑う向かいの男の発言に、素早く返した。
 この男は他人にタダで飯を食わせるような、そんな優しさの塊みたいな人間ではない。断じてない。


「俺ん家来い」
「む、り!」
「なんで」
「あんな広い家に平然とすんでいるお前はなんぞ?落ち着かんわ!」
「そんな理由か」


 前に一度、誉の住む家にお邪魔した事があった。一人暮らしという人間の住む家のデカさではなかった。
 大体、独身男が一戸建てってなんぞ。地下一階二階建てってなんぞや。
 地下室貸せ!とその時思わず叫んだが、地下より二階を貸してやるとか真顔で言われた。冗談が通じないのかと突っ込んだら、使われないよりマシだとかぶつぶつなんとか。忘れた。
 ……って、ちがうちがう。
 行くのは別にいい。行くのは。


「だって誉、セクハラするし」
「スキンシップと言え」
「女にやるだろ普通あれ」
「固定観念だな。お前は別だ」
「そりゃなんぞや」


 そう。セクハラという名の、誉いわくスキンシップをされるのだ。
 後ろから抱きつかれたり腰に腕を回してきたり首筋に顔を埋めてきたり噛んだり何だかんだ。ぞわっとしたし意味が分からない。


「趣味悪いよな」
「黙れ鈍感」
「いや意味わからん」
「とにかく昼飯食いに行くから待ってろ」
「うーい」


 くるりと回転する椅子を回し、ドア側を向いて立ち上がる。


「りく、」
「んぁ?」


 呼ばれて振り替えれば、整った顔が柔らかく笑みを浮かべていて。


「なに食いたい?」
「……誉の食いたいやつ」


 ちょっとドキッとしたのはうちに秘めておこう。

 


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あきゅろす。
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