短編集(~2019)
滑稽で愛しい打算的な日々よ。
時々、本来の用途とは違う理由で買ってくる薬瓶の中身をいくつかまとめて喉の奥に流し込む。
飲んで切って知ったんだけど。
頭痛薬やら痛み止めの大量服用には若干の麻酔効果があるんだって。
「───だからって麻酔代わりにひと瓶飲み干すな」
「…でも痛みはあったし」
「こんだけ抉ればな」
開院一番乗りで診察室へ訪れたら、ぴしゃりと担当医に言われた。
オレは現在、着ている白いワイシャツの片腕側を脱いでいる。外に晒された右の上腕には、肘の間接から少し上、肩より少し下にかけてびっしりと赤い線がついている。その一部は酷く抉れ、血の塊が出来ていた。
目の前で、慣れたとばかりにオレの腕の傷を処置していく担当医は若くして病院の院長の席に座る幼なじみである。
日向誉(ヒナタ ホマレ)22歳独身、外見も中身もイケメン。病院内で言わずもがなモテモテ。
対してオレは冴えないアルバイトの身で日々飽きずに自傷行為を繰り返す、既にその行為が日課でくせになっている所謂ダメ人間というやつだ。
「お前、痛み止め購入禁止させんぞ」
「それは、ダメ」
病院で処方されない痛み止めは、近くの万能薬局で買っていた。もし禁止にされたらどこの薬局でも痛み止めの類いを買えなくなるだろう。
それほどに顔が広いのだ、この男は。そしてやりかねないのだ。
「───ほら、終わったぞ」
「ありがとー」
血の痕をきれいに拭き取られ消毒され、清潔なガーゼを当て、きっちりと包帯の巻かれたそこは見慣れたもの。うっすらとでも痕は残るし何年も前の傷も未だに薄く残っていたりする。
自分でしてもいいんだけれど、事情を知るお医者様が処置させろと言うもんだから、お言葉に甘えているわけで。
やはり医者なだけあって素早く綺麗だ。
別に、オレは他人に同情されたいとか心配されたいとか思っているわけではない。他人からすればそう見えるかもしれないが、断じて考えてない。じゃなきゃ手首を切ったり人前で喚いたりするだろう。なにかと他人が察する事のできる行動をとるはずだ。
普段へらへらしているオレの手首に傷はないし、切っているとかODしているとかそういう類いのものは匂わない。
昔から続けてきて慣れた隠蔽だ。
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