短編集(~2019)
03
「たか…みね、くん?」
「なんだよ」
「なんで、」
なんで、ここに。
二、三ボタンが開いてるシャツに、緩んだネクタイ。小脇に抱えてるのはブレザーだろう。
どきりと鼓動が高鳴る。声が出ない。
「───なんでだろうな」
「……」
目を伏せた彼の表情が、暗くてよく掴めない。読めない。
この距離が今の僕らの距離なんだろうな、なんて思って。
「離れねぇんだよ」
「…え?」
ぽつりと聞こえた声。
ゆっくりと、近付いて来てるのに気付いて、でも動けない。
後ずさりたいけど、さがりたくない。
「俺だけかもしんねぇな、」
何を、何の事を言っているのかイマイチ理解が出来ない。
ただ距離は縮まっている。もう軽く手の届く距離にいる。
滑らかに上がった彼の手が頬に添えられて、思わず身を固めてしまった。
「お前が、───ユキの存在が頭から離れてくんねぇ」
「……っ、」
目が離せない。目が合ったままで、反らせない。
「この間会ってから、余計、他のこと考えらんねぇんだよ。……なぁ」
手が耳元の髪を梳いて、ぞわりと粟立つ。声が、手が、目が。意識が反らせない。
「…お前は?」
「え、」
「俺のこと、」
忘れられるくらい、今の相棒に擦り寄ってんの?
耳元で囁かれた言葉が、脳を支配する。
溢れ出しで来そうな何かを止める事が出来ない。
「ぼ、くは、」
「……ん?」
柔らかい。
声が表情が柔らかくて、甘すぎて。
そんな表情しないでほしい。蕩けてしまいそうになる。
無意識に手を上げていて、けど気付いても下げなかった。
そのまま手を重ねた。
頬に添えられた大きい手に。
軽く目を見開くその顔をじっと見つめる。
「離れない。……ずっと離れない。高峰君」
「……っ、」
「気持ち悪いくらいに、君の事ばかり思い出してるよ」
重ねた手にきゅっと力を込めたら、その手を捕まれて、指を絡ませて繋がれた。
暖かい。熱い。
甘い。
「俺、お前のこと好きすぎるみてぇ」
「……っ、僕も、君のことをそう思う」
コツ、と額が寄せ合わせて来て。
その距離にまた鼓動が高鳴る。
好きすぎて、どうしようもないみたい。
そう言えば、くすくす笑った彼が愛おしくて、繋がれた手に力を入れた。
END
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高校が違う二人は過去の相棒。
忘れられないのは、その全て。
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