短編集(~2019)
02
───いつからだろう。
あいつの名前を呼ばなくなったのは。
あいつを遠ざけるようになったのは。
手を離したのは、俺?あいつ?
結局なにも変わらずに。いや、変わったものはある。
ただそれが、自分の思いとの相違があるだけで。ただ、それだけだと。思い込んで押し込んだのは、俺の方だったのかもしんない。
「高峰君、いつまで部活サボるつもり?」
「っせぇな、ほっとけよ」
口うるさい幼なじみは、尽く俺の邪魔をする。
屋上にいる事を変えないからすぐ見つかるのは分かってるし、変えようとは思ってねぇ。だってめんどくさい。
「もー、いつもそうなんだから!」
「へいへい」
夕方近い空を見上げながら適当に返して、そこから、ふと音が消える。
『───…、諦めるのだけは嫌だ!』
泣きそうな苦しそうな面して、汗だくで息を荒げて。頑固なあいつはいつもそうだ。
意味は違う。
諦めてほしくねぇのは、それじゃねぇって、俺は思ってんだよな。
小さい手、20センチ以上下の低い身長。見上げて来る深緑色。同色の髪は結構ふわふわしてる。
「……っ」
バカか俺は。何考えてんだ。
久々に会ってから、頭からあいつが離れないのは、なぜ。
『───高峰君、』
離れない、消えてくんねぇ。けど消そうともしねぇ。
時々笑う顔が、赤くなる顔も、蕩けそうな目も、自分を呼ぶ声も、気付いたら思い出して。
重傷だ。
───会いてぇな。いやこの間会ったけど、あれじゃなくて。
道端、とか。
こっからアイツんトコまでどんくらいだっけ。今から行けば間に合うよな、あいつ部活出てんだろうし。
いつの間にか会いに行く事を考えて、体を起こして周りを見渡せば、幼なじみは居なくて。
「………バカだな俺」
呟いて、鞄を取りに行った。
「……」
あいつの家の近くにたどり着く。
通学路なんか知らねぇから、通りそうな場所に来てみた。周りはもう暗い。
「……ぁ、」
見つけた。見つけちまった。
見慣れた深緑色の髪、見慣れない制服、すぐに見つけられる存在。
「……はぁ、」
「何辛気臭い溜息吐いてんだよ」
「───…っ!?」
息を飲み込んで。
心底驚いたように振り返った、深緑色の目は見開いていた。
ああ、じわりと、埋まる。
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