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短編集(~2019)
途切れた糸を手繰り寄せて。
 

 ───いつからだろう。
 彼が僕の名前を呼ばなくなったのは。
 彼が僕に関わらなくなったのは。

 手を離したのは、どちらからだったか。
 時々、分からなくなるんだ。
 それでも君を気にする僕のことを、君は笑うのだろうか。












「───み、…逸見!」
「……あ、相模くん。どうかした?」



 真っ暗な視界がはっきりして、視界に飛び込んで来た天然の赤毛を見て返事をすれば、なぜか溜息を吐かれてしまった。


「お前、最近おかしいんだけど。なんかあったのか?」
「いや、疲れてるだけだと思うけど」
「………」


 疑うような目をされても。試合とかで疲れてるのは本当なのに。


「思い詰めるよーな、なんか気にしてるよーな目ぇしてっから」
「気のせいだよ」


 そう言い切って、会話を終わらせるように持ったままだった食べかけのサンドイッチをかじる。
 なのに。
 美味しくてお気に入りのサンドイッチなのに、味が分からないのは、なぜ。



『───…よお、ユキ、久しぶりだな』



 久しぶりに見た彼の顔が、声が、動きが、頭から離れないのはなぜ。



『おまえじゃ俺に勝てねぇよ』



 そう言った彼の表情は見えなかったし、あの時は衝撃の方が強かった。



 ───彼をいつまでも気にしてる僕を、彼はあの時のように嘲笑うのだろうか。


 笑っていた彼を。
 照れている彼を。
 妖しく笑う彼を。
 忘れられない僕は、いつまで。









「……我ながら、気持ちが悪い」
「───なんか言ったか?」
「!、……いや」



 部活中だという事すら忘れてしまって、物思いに耽るなんて。

 隣に来た濃い赤色を、ちらと見て視線をそらす。なんだか誰かを思い出すような、出さないような。


 バッシュが艶のある床に擦れる音。
 ボールのバウンドする音。気合いを入れる声。呼吸する音。熱気。汗。


 あの時嫌いだった全てが今は好きだ。
 なのになんでこんなに苦しいんだろう。







「───じゃ、お疲れ様。ちゃんと柔軟しろよなー」
「おー」
「おつかれー」


 片付けをして、着替えて。
 先に更衣室を出てゆっくり歩いた。
 何も考えたくないのに考えてる。



「……はぁ…」
「何辛気臭い溜息吐いてんだよ」
「───…っ!?」



 いつもの夜道なのに。
 なんで。




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