短編集(~2019)
03
「───ふぅん。それで、無慈悲にもあっさり帰ってきたってか」
「悪い?」
「いんや、べつに」
むしろ謝るよりは良いと思うよ、なんて間延びした声で、白は俺の部屋のベッドで寝返りを打って仰向けになった。
必要最低限のものしかない、モノクロな部屋が白は好きだと言う。
だから余計に、色鮮やかなものを置かなくなったのかもしれない。
白に背を向けて、ベッドに寄り掛かれば仰向けだったはずの白の手が首の両側から前に伸びてきて、俯せになったんだと悟らせる。
温かい手が、首に触れて鎖骨をなぞる。
すらりとした綺麗な指が、好きだ。
そのうちに、いつしか白の手は俺の首を弱々しくも圧迫していくんだ。
その苦しさが心地好いと感じたのは、いつからだっただろう。
脳みそが麻痺していく感覚が襲って来るのを、今か今かと待ち侘びて、ドキドキと鼓動は波を荒げてく。
「ダメだよ、銀。お前は俺のなんだから」
「ヤキモチ妬き」
「言うねぇ」
この関係に、干渉なんて必要ない。
ダレカに言うつもりも、感づかせるつもりもない。ただ、隠してるつもりもない。
「殺していい?」
「いいよ。気持ち良く逝かせてくれるなら」
「オーケー、良いとこ持っていってやる」
細身な外見からはイメージがないほど、白は力が強い。
だから、同性なのに軽々と俺を持ち上げて黒いベッドに上げられる。
「また白濁が目立つね」
「白が溢れさせないようにすればいいんだ」
「……言うねぇ、変態」
「どっちが?」
「俺」
「知ってる」
くすくす笑うのは白と居るときだけ。
くすくす笑うのは銀と居るときだけ、だと白も言って、お互いに笑うんだ。
しつこくない、どっぷり嵌まっていく。
死んだように、死ぬくらいの勢いで息を荒げて叫んで喚いて逃げて。
この世界で、唯一の鮮やかな白が、俺を満たしてくれる色。
「───…ねぇ銀、どう殺そうか」
「…っ、いつもより、つよく」
「いいね、また、朝までコース逝っちゃおうか」
「すきに、しろよ…っ」
「言ってよ、銀」
「…逝き、たい」
「りょうかい」
この世界は窮屈だ。
だけど、それでも、唯一この世界で広大に広がっている白と意識だけが、すべてを無くしてくれる。
END
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