短編集(~2019)
02
「お前は冷めてるよな」といつかの誰かに言われた事を思い出したのは、きっとこの同じ環境だからだと思う事は気のせいじゃない。
笑う事、泣く事、悔やむ事、寂しさ。
何かを、誰かを恋しく想う気持ち。
そんなもの、いつかの過去に置いてきたものだとばかり思い込んで、同時にそうであってほしいという自分勝手な願いだった。
十七歳の青春期、遊び盛り、そんなものに興味すらなかった。だから、悟りの境地にはまだ早くないかと面倒見のよい担任が笑ったのをただぼんやりと見ていたのは、つい先日のことだ。
そして今、俺は先日の担任との対話よりも冷めた目を自覚した上で、目の前の名前も知らない同級生を見ている。
自分を客観的に観察すればする程、周りの人間に冷めていった。
それは多分、自分に冷めきっているせいだなと勝手に納得してるんだ。
「───銀くん、あの、」
まるで同性と思えないようなキラキラした乙女のような同級生は、ちらちらとこちらを見ながら、恥ずかしそうに声を搾り出す。
言いたい事があるならさっさと言ってもらいたい。
だって今は放課後。
俺は早く帰りたいんだ。
帰るべき場所と、会うべき人の為に。
「あの、えと…ッ……す、好きです!ずっと銀くんの事ばかり考えちゃって、抑えられなくて…っ!、僕のことあまり知らないかもしれないけど、もし、銀くんが同性とかそういうの気にしないなら、僕、頑張るから、…っ、付き合ってください!」
というか、どうしてこの生徒は俺の名前を知っていて、下の名前で呼ぶのか。そこばかり気になった。
想い人に対しては皆そうなのかな。
今まで一言も会話したこともない、しつこいようだけど俺は目の前の小さい同級生の名前も知らないのに。
必死だな、と思った。
そう思うだけで、ほかに何の感情も沸き上がってはこなかった。
知りたいとも思わない。
同性愛に対しての違和感も偏見も軽蔑もないけれど、俺はなにも感じなかった。
「───気持ちを言うことは悪いことじゃない、」
「!」
「けれど、俺は君に何も抱けない。興味がない。君とは付き合えない」
「……っ、」
今にも泣きそうな目で、けれど真っすぐにこちらを見る目は嫌いじゃないけれど。
ありがとう、と言って、俺は同級生に背を向けた。
行くべき場所に向かう為だけに。
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