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短編集(~2019)
その甘さに、この脳は麻痺している
 

 この世界で、俺は何よりも広大な世界を知って、そして沈んでいく。

 愛している、と誰かが言った。
 そいつは自分で言っておきながらも、何故か笑って、何故か笑いながら泣いていた。
 どうしたら良いか分からない俺は、ただその時何故か、一緒になって泣いた。

















「おはよー」
「おはー、昨日のアレ見たー?」
「そういえばさあ、」
「あははははッ」



 ───この場所は窮屈だ。
 世界の中の一部に過ぎないのに、ここが全てのような窮屈なセカイだと思う。
 ここで始まってここで終わる事が当たり前のように、ここにいる人間は笑い、泣き、怒り、憎み、愛おしみ、寂しがる。
 滑稽な閉鎖的空間。外の世界を知らない篭の鳥みたいだ。

 そんな篭の鳥の目の前に扉の鍵を持つ誰かが立つのは、そんな遠い未来じゃない。


 そう。



「───はよ、銀(ギン)」
「……おはよう、白(シロ)」



 俺にとっては、そう遠くはないのだと最近知ったのだ。



「今日も眩しい色だな」
「白もね」
「だよなぁ、これ地毛なんだけど」
「俺も」
「知ってる」



 目の前の席に座る白は、髪も眉も睫毛も、肌も白い。
 そんな白の目の前に当たる俺は、髪も眉も睫毛も、銀色をしている。
 付き合いは長くない。高校に入ってからだし、たかが一年ちょいの付き合いなのに、何故か白とは長い付き合いのような錯覚を抱く。
 それをいつだか白に言った事がある。
 そしたら白は、俺も、と一言だけ言って笑うだけだった。
 けれど、それだけで心が満たされたような更なる錯覚を抱いた。


 俺は白の事をよくしらない。
 白は俺の事をよくしらない。


 それは暗黙の境界線のようで、心の中に深く進んでは来ない心地良さもあった。



「今日の昼メシは?」
「来たばっかりで言うのかよ」



 最近の白のマイブームは、俺の昼メシらしい。
 毎朝会う度、昼前なのに聞いてくる。
 あまり食にこだわらない少食な俺は、しっかり食べる時もあれば何もない時もある。
 ついでに言うと偏食もあって、白は俺の食生活に興味があるらしい。

 意味が分からない。



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そしてそれを聞かれるのを少し楽しみにしている俺も、意味が分からない。


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