短編集(~2019)
07
───おや?珍しいお客さんだねぇ。
「…!」
ねっとりした声が聞こえた瞬間、目の前が変化した。
ゆらりと歪んで、そこには森林。
太い木々が密集してる。
「───やぁ、可愛らしいお客さんじゃあないか」
「え?」
どこ?
さっきとは違った、はっきりとした声が聞こえたはずなのに。
見回しても、その声の主は見えない。
「ここだよ、ココ」
「!」
すぐ横の大木の枝の上に、それはいた。
ピンクと紫のストライプ柄。
長い尻尾がゆらゆらと気ままに揺れて、ピクピクと尖んがった耳が動いている。
体と同じような、左がピンクで右が紫のツートンカラーの髪の毛。
枝の上に器用に俯せで頬杖をついている、猫らしきその姿。
「……」
「なにかな?」
ゆらり。ゆらゆら。
ゆっくりとうねる尾先が、彼の顎の下に移動する。
にんまり、と笑みを滲ませて、俺を見てる。
「チェシャ猫」
「は?」
「皆はチェシャ猫と呼ぶ」
言いながら、体が後ろに傾いて。
落ちる!と思ったら、その姿は消えた。
「この世界ではね───」
するり、と大木に寄り掛かっているチェシャ猫。
「───え、いつの間に、」
にんまり。
笑ってまた姿を消したチェシャ猫は、気付けば真後ろにいて。
「……っ!」
「みーんな、いかれてんのさ」
長い尻尾が俺の体に沿って動く。
なまめかしいんだけど…!
「もちろん、───」
すっと感覚がなくなって、振り向けばそこには誰もいない。
「私もいかれてしまってるんだ、アリス」
「───…!」
するり、と首を撫でる尻尾。
体制を戻してもそこにあるのは木々だけ。
ばっと横を向けば、先程とは逆の大木の枝に座っている。
ピンクと紫色した、八頭身の、チェシャ猫。
「白兎を捜してるんだ」
「白兎?」
ぷらぷらと足を揺らしながら、首を傾げるチェシャ猫。
「ここを通らなかったか?」
「……さぁーねぇ」
言葉のリズムに合わせて動く尻尾に目が行くんだけど。
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