短編集(~2019)
05
『───きらきら光れコウモリさん 一体お前は何してる?』
ぼんやりと聞こえたのは。
『───この世をはるか下に見て おぼんのように空を飛ぶ。───』
のんびりとした、柔らかいような、眠そうな声と。
『───祝え!なんでもない日、万歳!』
…なんでもない日?
なんでもない日を祝うのか?
陽気な、歌。でも、なんだか声がおかしいような。
それから、暗転。
急だった。だからこそ、あぁこれは夢だ。って思った。また、夢。
風が吹いた気がした。
髪を撫でる。
視界が髪で隠れてしまう。
光が照らして、見えたのは。
「───…ぁ、れ?」
そこには、ここ一ヶ月で見慣れた草原。
目が覚めたのか、と思った。
どこかで、声が聞こえた。
「……───なきゃ!、急がなきゃ!」
聞き覚えのある声だと思った。
ぼんやりとした思考回路。
そして。
「ああ時間がない!急がなきゃ!」
目の前を、綺麗なフォームで走る、白兎。
「───…っあ!」
呆気に取られた。しまった。
白兎の姿はもう背中しか見えない。
揺れる大きなチェーンに繋がれてる、無駄に大きな懐中時計。
着ていた服の色が違う事に、その時は気づかなかった。
ただ思うがままに、白兎を追い掛けた。
「ま…っ、待て!」
ふわふわなスカートを掴んで、今では慣れたヒールのある靴で走る、走る。
言葉遣いなんか気にしない。
つか、早くねぇ?
畜生、兎をナメてた。これでも陸上部にいたんだからな、俺は…!
「急がなきゃ急がなきゃ」
「ちょ、ま、…っ!早すぎ!」
お前の前世は確実に陸上選手だろ…!
そう確信するくらいのフォームと、その速さ。
やばい、一ヶ月でここまで体が鈍るとか!つかスカートうっぜぇ!
草原を走る、白兎と俺。
忘れちゃならないのが、相手の白兎は八頭身だということ。
つまり脚が長い。その分一歩の距離が長い。
「っお前、絶っ対、……捕まえる!」
負けず嫌いな俺の性格が復活した瞬間だった。
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