短編集(~2019)
04
けれど、毎日あの場所でぼんやりいつもと変わらない景色を見ていたのに。
今日は、今日だけは違った。それが今、唯一の気掛かりだ。
たかが夢、されど夢。
でも、あの夢すら初めて見た。
八頭身の、白兎。
大きなチェーンで繋がれた懐中時計をぶら下げて、大慌てで、妙に綺麗なフォームでダッシュしていたあの白兎が唯一の気掛かりなのだ。
別に、見た目が奇妙で気掛かりなわけじゃなくて。
「おや、雨だ」
「本当だ」
「やだ、さっきまで良いお天気だったのに」
兄様が広々としたガラス窓から外を見ていて、続けて見れば確かに雨。
外は暗い。
「父様は外出先にいるはずだけれど、大丈夫?」
兄様がいつの間にか俺の手を握っていた。
本当、いつの間に。
母様が頬に手を当て、少し考えるような仕種をした後。
「大丈夫、アリスの為ならちゃんと今日帰ってくるから」
にこやかに言った。
発言の主語に俺が出てくる不思議は、いまだに未知だ。
溺愛されてんのは身を持って分かってるんだけども、妻である自分とか、一応兄様も息子なんだし、ね。
「そうだね」
まあ、ですよね。そうなるよね。
兄様も素敵な笑顔ですね。
比較的仲の良いらしいこの家の家族の会話は、ない方が珍しいくらいよく喋る。
今も兄様と母様は雑談中だ。
ちなみにいまだ俺の片手は兄様によって行動不可能だ。
都合が良いので、夢の事を考えよう。
夢の内容はあんまり覚えてないけれど、白兎だけは覚えていた。
インパクトあるし。
夢にしてはリアリティが高い。
場所も大木の真ん前。
目の前を走り去って行った白兎。
声をかけてもオールスルー。
デカイ耳ぶら下げてんのに聞こえてねーんかい、なんて突っ込んだりして。
細身で長身の、白兎。どんだけ。
なぜか顔の造形は覚えてない。顔より全体が印象強すぎたか。
白くて長めの髪に、垂れ下がった白い耳、白い体、白さを際立てるような、赤を基調とした服。
それくらいしか覚えてない。たぶん。
眠ったら、夢でまた見れるだろうか。
なんて、よく分からない事を思った。
[←][→]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!