短編集(~2019)
03
美味しい母様(男)の手作りクッキーを広々としたリビングで心置きなく食べていると、リビングに兄様であるらしい人物が現れた。
どこぞの国の王子のような、綺麗なブロンドに綺麗な碧眼。
そして透き通る、とまではいかないが白く綺麗な肌。
美麗な兄様である。
そして残念な事に、
「あぁ、アリス、どこ行っていたんだい?心配したじゃないか。僕のアリス」
超ブラコンである。
これぞまさしく残念な美形と言えよう。
サラサラなブロンドヘアは父様譲りで、父様もまあ、かなり美麗なお方で。
この童顔美人の母様と美麗な父様の間の子供がこれか、とクッキーと一緒に出された紅茶を飲みながらも目線は兄様。
上質なソファで寛いでいれば、兄様が優雅に当たり前のように隣へ座る。
ちなみに母様は向かい側だ。
ニコニコしながら俺がクッキーと紅茶を口の中に入れるのを見てる。
食べはじめてからずっと見てる。
飽きないのか?飽きないのか?目を開けながら寝てるのか?
いや起きてるけれど。
瞬きしてるし、喋るし。でも視線はずっと俺。母様も父様も兄様も俺を見る。穴が開くくらい見る。
一ヶ月経つと慣れるもんだ。
慣れって怖い!
「兄様、仕事?」
「あぁ、そうだよ。アリスを想いながら頑張ったんだ」
「……、へえ」
よく頑張りました、とでも言って頭撫でるか?
いや、無理。危ない。俺の貞操の危機だ。過去体験済みで学習した。
安易に触れてはいけない。
だからこそ、手にしたクッキーを兄様に差し出すだけ。
兄様は満足げにそれを口にするんだが。
いわゆるやはりの、あーん、というやつだ。
おやつの時以外はやらない。
それなりのマナーだ、うん。
「アリスってば、ホント、大木が好きだね」
紅茶の入ったコップを持ちながら、母様がお茶目に言う。
まったくこの子ってばもう!みたいな。
俺はこの一ヶ月、毎日のようにあの大木の元に行く。
何か分かるかもしれない、っていう僅かな期待と自分の時間を求めて。
「あそこは気持ちが良いからね」
不信感なんて言葉すらないらしい。
兄様は爽やかな笑顔だ。
俺に関して不信の『ふ』の字もないのか。
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