短編集(~2019)
貴方に出会えた事がその答え。
───気付いたら、目の前に見覚えのある顔。
だけど見たのはきっと何ヶ月も前で、どうしてその顔を見覚えがあると思えたのかと問えば。
ただ単に、他より目立っていたからだと言う。
『───続いて、今日の占いです!』
朝なのにカーテンを閉めきった薄暗い部屋で、ただテレビの音と明かりだけがそこにある。
向かいの硬くも柔らかくもないソファーに、膝を抱えて座って、じっと流れる映像を見続ける。
…の繰り返しが何ヶ月続いているのかすら曖昧になるほどに。
『───6位は、天秤座のあなた!何に関しても普通な日。何事もなく過ぎていきそう。そんなあなたのラッキーカラーは……』
ぼんやりと、明るいアナウンサーの声と正反対の部屋の雰囲気におさまる。
確か土曜日の今日。
本来学校に行く学生は休み。
けれど僕は年中休み。
そう、不登校という休み。
『───さあ、今日1番良い運勢なのは…』
なんとなく毎日見ているテレビの占い。
『水瓶座のあなた!…超ラッキーデー!お仕事の方も休みの方も絶好調な一日。ラッキーカラーは赤!……』
「……あか」
アバウトだな。
赤だって色々な赤があるのに。なんて思う僕は、心底くだらない。
曲げた脚を抱え、支える手に少し力が入った。
超ラッキーデー。
そんなもん、個人が決める事だろうに。
不特定多数に向ける占いの対価は安いようで、きっと高いんだろうな。当たるも外れるも個人が決めてしまえばそれで終わり。
水瓶座の誰かが今日死んだかもしれないのに。
いや、それが良いと思う人がいるとしたら、ラッキーデーなんだろうか。
生きるも死ぬも、それがアンラッキーでもラッキーも、そう思えばそうなる。複雑な、入り混じるもの。
「……昨日は、最下位だったな」
特に何も起きなかった。
まあ、夜中に散歩する以外で外出なんてしなかったのだけれど。
不登校。
両親はいない。
生きていないから。
親類もいない。
比較的裕福な環境だった僕は、高校生でいる間は働く必要がない。
保険金とか、大金持ちより莫大ではないけれど、僕にとっては莫大な遺産という名のお金。
愛されていた。
愛されていたと思う。
一人っ子だった僕の、唯一の血縁。
その両親がいない今、好き勝手しているんだ。僕は。
高校生になって行ったのは一ヶ月だけ。
学費は三年分払っているらしく、それ以上払う必要もない。
必要最低限のご飯を食べ、必要最低限の水分を飲み、必要最低限以上に睡眠をして、本来不必要な傷を付ける。
それだけ。
[←][→]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!