短編集(~2019)
04
『好き』という言葉には種類がある。
アイツに対する僕の『好き』が、どれなのかが曖昧になったのはいつからだっただろう。
「なぁ、雨倉、」
「……」
「聞いてる?……あーめーくーらー」
「……」
机の上に、自分で作った弁当を広げて視線はおかず。
ひらひらと影がちらつく。
ここで返事をするつもりはない。
面倒臭いのはごめんだ。
「……なあ、何で無視すんの」
少しの間を置いて低く小さく囁かれた言葉に、目だけ向けた。
「……」
「…ッ、だんまりかよ」
ガタン、と音を立てて相馬は目の前から、教室から出て行った。
弁解をするつもりはない。
あの呼び出しから数日過ぎて、僕はアイツからかかってくる電話に一度も出ず、メールを開く事もしなかった。
黙ってあの可愛い顔した生徒達に従う事に抵抗がなかったのは何故か、いつも夜寝ようとすると疑問した。
アイツは知らない。
知る事はない。
このまま自然消滅でもしようか、なんて考えた僕は、もしかしたら本当に思い込んでいるだけなのかもしれない。
付き合っていると、恋人だという事実が、そもそもアイツの中にはないのかもしれない。
そう、例えるなら、これは自嘲。
「……ごちそうさま」
手を合わせて、平らげた空の弁当箱を片付けて僕はぼんやりと窓から見える空をただ見つめた。
窓際の1番後ろの席が好き。
こういう好きと、アイツに抱く好きの違いが、僕の中でぐちゃぐちゃと混ざっているような気がして。
「……めんど、」
自分からも微かにしか聞こえない音を漏らして、これから続くかどうかも分からない状態を考える事を放棄して僕は視界に空を映したまま腕を枕にした。
アイツは、知るだろうか。
いつか、もしかしたら近い日に何が起こっていたのか、何を起こしていたのか。
僕は知らない。
知らないと思っている。
アイツが考えてる事もその基盤になる価値観も、何も知らない。
だから、こんなに曖昧なのか。
END
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返事をしない僕を寂しそうな顔で見ていたアイツを僕は知らない。
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