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短編集(~2019)
君を愛しいと思う瞬間に全ての音を消して
 

 ───好きだよ。
 僕はお前が好きだよ。
 ぶち壊したくなる程に。
















 誰かが自分は世界でちっぽけな存在だというけれど、対比基準がデカ過ぎやしないか。

 見ている世界は、感じる世界は、理解する世界は自分なのに。
 自分の世界で理解しているのに。
 都合よく視野を広げ、都合よく視野を狭める。

 臨機応変なんて言えば聞こえは良いけれど、実際そんなもん自分勝手でしかない。
 自分が死ねば自分の世界は終わる。

 簡単なことなのに。
 純粋なことなのに。
 単純なことなのに。


 深く深く深く考えるクセのある人間は、ある一定の歳が来る度にそれを忘れる。
 自分がいま生きてる人生の中心は自分。
 人生は個人の世界である。

 なのに、自分勝手に他人の人生にまで視野を広げて悲観的になるのは、なぜ。
 そうでなければならないという、価値観の一部とでもいうのか。
 いつまでもいつまでも繰り返して、そして後悔するんだ。
 後悔したくないと歎くわりに、自分勝手に突き進んだ結果に後悔する。
 そうしなきゃいけないのは常識なのか。

 それとも、孤独になる事を無意識に恐れているから?


 ───僕は、孤独になる事が、怖いと思っている。だから、


「雨倉(アメクラ)、」
「なに」
「愛してる」


 何度も浮気をするお前を、愛する事をやめないんだ。
 いや、やめられないんだ。


 だって、お前は、浮気をしているんだ。
 僕が気付いている事を知っていても、罪悪感も後ろめたさも持ち合わせなくてただ浮気をしているんだ。
 そう思っていないから。
 お前は、自覚をしていないから。
 ただ浮気をしているんだ。

 そして昨日も、お前は浮気をしたんだろう、相馬(ソウマ)。


 けど僕は、お前を好きだよ。
 愛してると言うその甘い声も、表情も、手も、好きだよ。
 だから、


 だから、ぶち壊したくなるのに愛でていたいと思う僕も、浮気をするお前と同じように見えた。



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雨倉(アメクラ)
相馬の恋人。

相馬(ソウマ)
雨倉の恋人。
無自覚の浮気性。

高校生の屈折。

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