短編集(~2019) 02 眠りからゆっくりと浮き上がる。 携帯の目覚ましは昨夜オフにしてあるから自然に覚める。 なんか、暖かい。 いつもより体が暖かい気がして、その暖かさが心地好くて布団に潜り込もうとして、はたと手を止めた。 なんだこの違和感は。 …いやまて、違う違う。 気のせいそう気のせいだ。 これは夢だ。ゆめゆめゆめ。 朝から思考回路が忙しなく回転する。 壁と向かい合って横向きにしていた体をそのままに、首を捻って後ろを見た。 「んん、……ぐう」 「……なぜに」 気持ち良さそうに眠るメイが、そこにいた。 もう一度言おう。 なぜに。 「そんなふて腐れないでよう……、ふて腐れた顔も可愛いけど」 俺はベッドの上で胡座を組み、腕を組んだ状態でベッドの下、床の上で正座をするメイを見下ろす。 あのあと我にかえって、躊躇なくメイを蹴り落としたのは言うまでもない。 相変わらずにこにこと笑顔を崩さない。 すんごい腹立つ。 安眠妨害だ。妨害されてねーけど。 むしろ心地好く眠れたけど。 絶対言わない。 「怒ってる?ユズ?」 「当たり前だ変態」 「ごめんね、ごめんね。一緒にいたかった。あわよくばあのまま夜ばいの如く襲いたかっ」 「帰れ」 言い終わる前に切る。 不吉な言葉が聞こえた気がしたが、この際スルーだ。 折角の休日土曜を無駄にしてたまるか。 明日は日曜だから休みだけど。 大事なのは出だしなのだ。 「うー…。もうしないから、ね。一緒にいよ?」 「嘘つくな」 「う…っ……、」 正座をしたまま俯くメイ。 こいつがこれを言って実際しなかった事は、付き合いはじめて半年経つが一切なかった。 毎週毎週飽きずに現れる。 母さんは美形に弱いから容易く入れる事は承知してたが、よくもまあ息子の苦情を照れだと思えるよな、あの人も。 ------------------------- [←][→] [戻る] |