短編集(~2019) 14 「───っ!!やめ…っ…汚いっ」 「いいから、聞けよ」 重くなった声に怒りを感じて、息を飲む。 三門さんは俺をじっと見つめたままで俺はその目を反らせない。 透き通るその目に吸い込まれそうになって、意識を集中させる。 「……俺は、お前の意思を聞いてるんだ。お前自身がどうしたいのか聞いてる。周りがなんと言っていようが、許す許されないだの、そんなもんどうでもいいんだよ。 お前自身で向き合え、俺に。そして言え」 逃げ出したかった。 怖くて。 温もりに縋って、甘えて、また裏切られるのが怖くて。 違うのに。 そんなことわかるわけないのに、怖くて怖くて聞きたくないって思って。 けど本当はそうじゃなくて。 俺がどうしたいのかなんて決まってるようなものなのに、俺自身がそれを認めようとしないなんていう矛盾があって。 すがりたい。 あまえたい。 この目を見つめていたい。温もりを感じたい。 でもこわい。 「……こわ、い」 「また繰り返す事がか」 なんで思ってることが分かるんだろう、なんてことはもう考えない事にした。 ちらりと見遣れば、優しい目と合って。 どくんと高鳴る鼓動が聞こえてそうで。 「こわい、けど、……俺は、」 「……ああ」 「…っ………ここに、……いたい」 振り絞って振り絞って出した小さい声で吐き出して、俺はぎゅっと目を瞑る。 「……お前の名前、聞いてなかったな」 「え、…あ」 予想外の返答に言葉が詰まった。 名前。そうだ、名前。 名前は棄てられたわけじゃない。 でも、姓は、もういらない。 「……佳祐、」 「ケイスケ、ね。姓は?」 「…伊佐木。でも、いらない」 「……、そうか。そうだな」 [←][→] [戻る] |