短編集(~2019) 13 「……、な…っ」 「ホラ、選べよ。最後の選択肢だ」 最後の、せん、たく。 生きるか死ぬかなんて、そんな極端なもんじゃない。 なにを言い出すんだ、この人は。 大体、今日初めて会って、手当てとか睡眠とか飲み物とか、それだけでいいはずなのに。 俺は自分の名前すら、言ってないのに。 なのに、1番最後の選択肢はなんだ。 死ぬまで過ごす? なにも知らない、初対面のただの男子高校生の歳の奴なのに。 なんで。 「なんで、……そこ、まで」 「知りたいか?選んだら教えてやるよ」 「……っ!」 びくっと肩が震える。 まだ引き寄せられたまま、三門さんの体温を感じる。 顔が熱くなる。 鼓動が早くなる。 震える。手が、体が、心が。 怖くて怖くて怖く、て。 強く握りしめた手が、傷んで。 ぷつ…っと、爪が食い込んで突き破る感覚がして。 じわじわと痛みが増加して、どくどくと鼓動が早まって。 ───どうしたい? 三門さんの声が繰り返す。 許されるんだろうか、俺がまた再び選択することは。許されるんだろうか。 そんな甘い話が、あるのだろうか。 分からない。 分から、ない。 「…!、おい、握り過ぎだ…っ」 「……っ、…あ、」 俺の手に気付いた三門さんが乗り出して、簡単に手を解く。 寄り掛かっていた状態もなくなって俺は手の平を見た。 爪の跡と、そこからじわじわと滲み出る血液が目に入る。 痛みはある。 痛みはあるのに、痛くない。 なにがなんだかわからない。 「……選べ、…ません」 「……」 「俺に、は、選べない…です、」 「なんで」 「……っえ、あ…、だって、俺には、そんな権利なん、て…!」 権利なんて、ないって言おうとして、終わる前に、捕まれていた手を引かれて、また引き寄せられて。 血のついた、汚れた俺の手を掴んだまま、三門さんは自分の頬に触れさせた。 [←][→] [戻る] |