短編集(~2019) 04 頭を動かして、しっかりとそいつを見る。 一瞬相手が目を見開いたような気がしたけど、気のせいかもしれない。 実際に目を見開いたのは、俺の方だったのかもしれない。 すらりと伸びた長い脚、身長があり、肩幅も広い。バラけた黒い髪に、すっと通った鼻筋、柔らかい印象の目。 黒いスーツに身を包んだその男は、テレビや雑誌の中にいるようなモデルや芸能人よりも、更に上を行くような美形。 こんな世の中に、まだそんな人間がいるのかと呑気な事を思った。 「……、聞こえてんのか?かつあげでもされたか」 「……」 どうでもいいような口調で、その男は俺を見続ける。 かつあげのがまだマシなのかも。 だって、無くなるのは財布丸ごとか中身の現金くらいだ。 「……ねてる」 「そりゃあ見れば分かる。顔は殴られたんだろうな、なんで動かない」 「……ねたいから」 「………」 あー、呆れてる。 寝たいから、なんてのはもちろん嘘。 好きでこんな所に寝る奴はいない。 コンクリートが大好きな奴がいたら、もしかしたら俯せで寝転がるかもしれないが、生憎コンクリートは好きじゃないし俺は仰向けだ。 コツ、と音がして。 男はしゃがみ込んで、距離が近くなる。 近くなればなるほどに、その完璧な容姿をはっきりと目に映す事になって。 「うそつけ、」 「…………」 ニヤリと口端をあげるその男に、なぜかイラッとしたのは俺だけの秘密だ。 [←][→] [戻る] |