短編集(~2019) 05 「……冷たい、」 「……るせ」 なんて言ったのか聞こえたかはどうでも良かった。 未だに震えてる身体を後ろから抱きしめたまま、首筋に顔を埋めた。 ぽたりと俺の濡れた髪の毛から水が落ちて、恋人の首を伝うのを見る。 イヤフォンから漏れ出す微かな音を聞きながら、確かな温もりを感じて目を閉じた。 「……ごめん」 呟くような声に顔を上げれば、悲しそうな顔をした恋人はしゅんとした顔で。 思わず笑いを零せば、なに笑ってんだと今度は顔をむっとさせる。 普段は無表情なくせに、俺と二人きりだと見せる感情が愛おしくて、イヤフォンを取って顔を向かせてキスをした。 ほんのり残る甘い味を無くす勢いで。 「…馬鹿か」 「うるさい」 鼻がくっつきそうな距離で笑う。 気付けば雨は上がっていた。 手を繋いで、部屋に帰る道を歩きながら、コンビニに寄り道して二人して限定お菓子を吟味して、幸せだと自覚する。 例え非生産的な恋だとしても、愛しちゃったもんはどうにもならない。 報われない恋だなんだと言われようが、唯一の人間を見つけたからには、そいつを死んでも愛すだけ。 いっそのこと、甘ったるいまま一緒に死のうか。なんて。 END ---------------- 原因。 限定プリンを食べられちゃった事に受けが怒って、攻めが買っておいた限定お菓子を食べちゃった事でケンカ。 始まりから終わりまで、あまあまで、なんてのも、ひとつの幸せ。 [←][→] [戻る] |