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短編集(~2019)
白い翼の黒いやつ。
 


 ───仕事で来ていた町で、常人には見えない奴に付きまとわれている人を見つけた。
 本来そうならないはずの人だったから、違反者として上司にチクってやるつもりでストーカー野郎をその人間から離すことにした。
 そういう仕事だからだ。



 けれどもどうやらその人間は、付きまとわれやすい「質」だった。だから俺がそばにいて、その「質」を無くしてやろうかと持ちかけると、その人は戸惑いながらも頷いた。
 そして、よろしく天使さん、と笑うその顔を不覚にも可愛く見えてしまった。


 白い翼と黒い翼。そんなもんないけど。
 人間の世界にいるときは、見た目は人間で。
 俺は、天使と呼ばれる類いのものだった。その人に付きまとうのはいつも、悪魔と呼ばれる類いのものだった。










 あれから、5年。
 高校生だった青少年は、ぴしりとスーツを着こなす社会人になっていた。
 まだまだ垢抜けない新人という立場らしいけれど、元々しっかりしていたというか冷めていた彼は、雰囲気は新人を卒業しているように見えた。

 あの頃から既に両親と離れて暮らしていた彼の家に同居するかたちになっていたために、自分でも驚くほど家事も慣れたもの。



「…おはよ」
「おはよう。はい、コーヒー」
「ん、」



 寝ぼけているのか、眉間にシワを寄せながらマグカップを受けとる彼は、スーツを着ると別人みたいに変わる。
 面白いほど切り替え上手というか、仕事とプライベートをはっきりと区切るタイプのようだ。

 だからこの素の姿を見られる立場の俺は、こいつが可愛くて仕方ない。
 仕事中はクールというかとにかく冷たいのに、帰宅してスーツを脱げば雰囲気は一気に暖まる。
 なんだこの可愛さは、と悶えかけたことがあるほどのギャップなのだ。



「今日何時くらい?」
「ん……定時で大丈夫だと思う、けど」
「けど?」



 トーストを飲み込んで、考えるように目を端に向けると、チラとこちらを見た。



「カンナが飲み行こうって、」



 カンナ、とは女みたいな名前の男で同僚の人間でどうやら彼に気があるらしく。
 そんな奴と飲みにいくだと。
 だから、にっこり笑って、言った。



「やっぱあいつにお前の「質」移すか…」
「…天使ですよね?」
「天使が必ず人間を幸せにすると思うなよ」
「あんたの方が悪魔に見えるわ…」




END
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カンナと天使は陰のライバル。

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