短編集(~2019) 16 ───遊木と雛形先輩に声を掛けるために屋上のドアを開けると、ラブラブカップルがイチャイチャしてました。 反射的にドアを閉めてしまいました。 すぐにドアは開けられて遊木が顔を出したけど、気まずさに苦笑いしか出来なかった。 「邪魔してごめんなさい」 「あはははは、大丈夫だってばー、こっちこそごめんねえ」 昼休みはとっくに終わっちゃってたらしく、初めてのサボりである。 屋上で遅めの昼食しよ、と遊木が言ったので、はて、と首をかしげた。 「食べてるって言ってなかったっけ」 雛形先輩が。 そう言うと、当の雛形先輩は苦笑して、ちょっと後回しにしたらいつの間にかああなっていたらしい。 恐るべしラブラブっぷりである。 とりあえず話し合いは終わって、正式に?恋人になりましたー、と結果を伝えたら、二人は嬉しそうに笑った。 そして二人が暮中をからかったせいで、現在弁当をつつきながら暮中はちょっと不機嫌そうである。 「拓、そう拗ねるな」 「……拗ねてねぇ」 雛形先輩がまるで兄貴みたいに見える。暮中に対するからかいにノリノリだったのはアレだけど。 なんだか面白くて二人を見ていると、向かいにいた遊木が俺の隣に来て耳元で囁いてきた。 「春ちゃんが呼べば治るよ、機嫌」 そうだろうか、と思いつつ、そういえば逃げる前に呼んだだけだったなあ、と気付いた。 ずっと不機嫌そうな顔で居られても困るので、弁当を食べるのを止めて暮中にちょっと体を向けた。 「……拓、弁当美味しくない?」 「!?、げほ…っ」 名前呼びに勢いよくこっちを向いた暮中は、どうやらご飯を喉に引っかけたらしい。 目を見開いて凝視してきた暮中をじっと見ていると、驚愕の眼差しが困ったようなそれに変わる。 「……旨いに決まってんだろ」 ふい、と目を反らして、小さく言った暮中は何故か溜め息を吐いた。 「お前、不意討ちとかやめろ」 「不意討ち?」 「二人きりだったら押し倒す」 「……変態」 「なんでだよ!」 「やーだー、拓ちゃんやらしー」 「春、二人きりの時は用心しろよ」 「はーい」 「っ、てめぇらいい加減にしろ!」 「拓がキレたーこわーい、春ちゃん危ないからこっちおいで」 「そうするー」 「おい湊っ、春に抱き着くな!」 「嫉妬深いと嫌われるぞ、拓」 「ゆうも嫉妬深いけどねー」 「そうなの?」 「湊…?」 「お前マジで春を離せっつの!」 「恐いこわい、狼がいるねえ」 「ちょっとこっちにおいで、湊」 「遊木ー、雛形先輩の笑顔がこわい」 「ふは、面白すぎー」 「春!」 「湊、」 ───…二ヶ月前に突然現れた暮中に、俺は自分が思い描いていた青春を諦めたけれど。 今はその諦めが幸せに繋がっているんだと思った。 あの時、俺と一緒に青春しろ、だなんて真面目な顔で暮中は言ったけど、もし今同じことを言われたら俺はきっと笑って頷くんだろうなぁ、と遊木に抱き着かれながら、目の前で焦る二人を見ながら、そう思って笑った。 いつまで続くか、とかそんなことは考えない事にした。 だって今が楽しいから。幸せだから。 それでいいんだよ。 捻くれ者な俺を、優しい不良な暮中がそうやって悩みなんか忘れさせてくれるから。 E N D [←][→] [戻る] |