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短編集(~2019)
09
 


 弁当渡せなかったなあ、と思いながら、力なく教室に戻る。
 けど食欲なくて弁当を出す気にならず、結局2つとも無駄になってしまった。



 そういえば、まだ2ヶ月くらいしか経ってないんだよな、出会ってから。
 出会い方はまあこの際置いておく。俺の中で仮になっているけど、暮中の恋人である事は忘れてない。
 今まで散々遊んできただろうに、暮中とは時々手を繋ぐとか軽く抱き締められたりとかしただけで、他にはなにもない。
 仲良しの延長戦上で起こるスキンシップみたいなそれ。
 そもそも暮中は男と恋人関係になったことないだろうから、どんな感じなのか分からないと俺は思う。


 本気なんだとは感じても、やっぱりよく分からない。実感がない。
 …いやいや、実感が欲しいのか俺は。
 落とす落ちないの話だって、他人が聞けばただのゲームみたいに聞こえる。
 勝ち負けだって何が勝ちで何が負けで、勝敗ついたからどうなんだっていうか、名前呼びとか色々あったけど、思い返せばその条件も何だかな、というか。
 俺が勝ったらどうするのか、そういう話だってしてない。
 そもそも俺が中途半端だし。


 だからこんな、モヤモヤすんのかな。
 はっきりとした理由が分からないモヤモヤがある。


 友達として、人として、彼らのことは好きだ。
 遊木と雛形先輩のラブラブっぷりにも慣れてきて、見ていて微笑ましいというか嬉しいというか、のほほんとしている二人には癒される。
 ───じゃあ、暮中は?



「……はぁ」



 板書が進んでも、何も書かれないノートを見つめながら溜め息を吐いた。
 ふらふらとシャーペンが揺れる。

 友達───という言葉に引っ掛かる。
 俺とあの三人組は、いや遊木と雛形先輩とは友達なんだろうか、という疑念。
 暮中と恋人だからこその付き合いなのかな、という寂しさ。
 ごちゃごちゃしてて分からなくなる。
 授業内容も頭に入ってこないし、何なんだろうこの感じ。


 あの先輩達にイライラしてるんだろうか。
 個人ではなく団体(つっても5人)で、暮中たち三人組に取り入るというか近づこうとして、取り合いとかすんのかな。
 あ、恐いそれ。
 女がする男の取り合いとか恐い。
 暮中たちに近づきたいって思ってる女は多い。
 見た目、かな、やっぱり。見た目がイイ人と仲良しとか恋人とかは彼女らにとってステータスって扱いになるのかな。
 特別扱いされたいって気持ちは男より女の方が強くて重いんじゃないか、って中学の友達が言ってた気がする。
 中学生なのに色々悟ってるやつで、それに違和感がないような性格してるけど。
 ヤツは違う高校行っちゃって、たまにする電話くらいしか関わりがなくなっちゃったなー。夜電話してみよっかな。



 色々考えてるうちに、頭の中はいつ電話しようかとかいう内容に変わっていって、暮中たちに会うのを勝手に気まずく思って、その日はひとりで帰った。

 暮中とは夏休み中はよく会ってたし、夏休み前から途中まで一緒に帰ってたからか一緒に帰るのが当たり前になってて、やけに帰り道が静かだった。



 弁当渡せなくてごめんって送ったメールには、明日は唐揚げ付けろって返事が来た。今日の弁当に入ってたけど、渡せなかったから意味なし。



 今日はダンディーな父親の帰りが遅いので、寂しく残った弁当で夕飯を済まし、風呂に入って寝る準備を整えてから中学の友に電話をかけた。


 


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