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短編集(~2019)
05
 

 ───8月1日、午前9時。場所、最寄り駅前。

 指定時間が早いのは、ゆっくりしたいからだとか言ってたけど起きれるのかあの三人組。
 ちょっと不安になりながらも、五分前には駅前に着いた俺は、慣れない服装とたまにしか弄らない髪形に不自然がないか気になって仕方ない。

 あれから父さんはしばらく考えたのち、俺が候補に出した服ではなく、クローゼットにあった未候補の服に手を出した。
 俺の服はほとんど父さんの趣味が影響されてたり、父さんが買ってきたりしたもので、男子高校生にしては結構豊富に揃ってたりする。その中で父さんが選んだのは、モノクロベースのちょっとパンクっぽい細身の洒落たものだった。
 落ち着いた兄系の服を好んで着ていた俺としては、なかなか着ずにいた種類の父さんから貰ったものだ。
 マジか、大丈夫か、と結構しつこく聞いたんだけど、父さんは大丈夫の一点張り。ちなみにヘアスタイルも父さんが自らやってくれた。
 せっかくの休みなのに早起きして。親ばかか。嬉しいけど。
 染めたことがない黒髪で、派手ではない緩やかなセットを施され。髪形自体は良いけど、合ってるのか不安になって何度も鏡を見たり父さんに聞いたり、反抗期なんてありません。パパ大好きです。キモイですねすみません。


 てなわけで、オールコーデが父さんという、安心して良いんだか不安に思うべきか複雑な気持ちで、三人組待ちである。なんだか視線が痛いです。

 9時になるちょい前、ロータリーの方から人並みに乗って、纏う雰囲気が見知った異様な数人が見えて、でもなんか違う。
 と、ポケットに入れた携帯が着信を知らせてきて見ると、暮中からだった。



「もしもーし。おはよ」
『はよ。どこにいる?』
「改札行く階段…交番の横あたり」
『そこな。……あ?』
「ん?」



 納得してからの疑問符に、なんだと首をかしげた時、目先に見慣れた雰囲気の見慣れない三人組がゆっくりと近付いてきて……え?



「……暮中…と、遊木、雛形先輩?」
「……春?」
「春ちゃん、かわいー」
「よう、待たせたな」



 まともな返事は雛形先輩だけだった。遊木は意味が分からないです。繋がったままだった電話を切りつつ、まじまじと三人組を見る。周りもめっちゃ見てるけど。

 目を見開いた暮中らしきイケメンは、なんと見慣れた茶髪ではなく、ゆるくセットされた黒髪に黒縁眼鏡、大人っぽい兄系の服装で。
 遊木は茶髪だが、いつもしてない一纏めに服はパンク系で雰囲気もちょっと違う。
 雛形先輩は、黒縁眼鏡ではなくコンタクトにしていて兄系とパンクっぽいのをミックスした、なんか大学生みたいで。


 制服姿だけしか見たことなかったけど見慣れた三人組が、まさかここまで雰囲気を変えるとは。たしかにぱっと見はあの三人組だと気づかない。



「すご。やっぱりかっこいー」
「春ちゃんもなんかいつもと違うねえ」
「よかったな、拓」
「……」



 唯一無言の暮中は、なにを思ったか俺の横に来て、耳元に寄ってきた。



「すげぇいい。好き」
「…っ!」
「うわ、イイ笑顔ー」
「ベタ惚れだな」



 囁かれた声と言葉に、ぞくっとした。
 いい声でそんなことをよく恥ずかしげもなく…と横を睨むと、なぜか暮中は目をそらした。おい。



「照れるなら言うなよ…!」
「うるせ。言いたくなったんだよ」
「自重しろ」
「善処シマス」



 する気ねーなコイツ。
 イラッとしてつい軽く肩を殴ったら、笑いながら手を握られたので、公衆の面前でやめろとその手を叩いたらまた笑われた。
 ムカツク。負けた気分。



「拓があれやられてあの反応するのは春ちゃんくらいだね」
「だな」



 それを見ていたカップルが、そんなことをしみじみと話しているとはつゆ知らず。
 とりあえず行くか、と改札へと進むことになった。
 ちなみに暮中は隣を動く気はないらしい。距離が近いです。遊木と雛形先輩も距離が近いです。なんだこれは。



「ていうか、どこ行くの?」



 そういえば行き先を知らない、とホームで電車を待ちながら聞くと、暮中は見慣れない眼鏡の奥で目を細めた。
 ていうか知的になってる暮中が違和感。いや似合ってるんだけど、見慣れないからかドキドキ…いやそういう意味じゃなくて…うん。

 行き先は、最近新しく出来たバカでかいショッピングモールらしい。楽しみ。


 

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あきゅろす。
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