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短編集(~2019)
03
 


 遊木たちが同性カップルに寛容な理由は実は告白事件の翌日に分かったのだけど、それを知ってから余計に、暮中が本気だという言葉が事実であると思わせる。


 三人で屋上に着くと、そこには既に一人、フェンスに寄りかかって携帯を弄っている生徒がいた。




「ゆーうちゃーん」
「おつかれ」



 遊木が駆け寄った生徒、一個上の3年、雛形先輩は顔を上げると、それはもう嬉しそうに笑った。
 この雛形先輩こそ、遊木の彼氏である。そう、彼氏。恋人は男なのだ。知ったときは本当にびっくりした。だって遊木は見た目から遊んでそうだし。けれども同時に色々と納得した。

 緩いな雰囲気の遊木に、柔らかな雰囲気の雛形先輩のカップルは二人揃うと全体的に花が咲いてる。なんつーか、のんびりしてる感じ。
 因みに付き合って一年だとか。遊木たちが一年の時に、雛形先輩からのアプローチで交際開始。互いにベタ惚れだとか、暮中が呆れたように言ってた。


 並んでフェンスに寄りかかる二人の向かいに、暮中と座る。既に定位置。
 最初は離れて座ろうとしてたんだけど、先輩と遊木が向かい側に来いと言うのでこういう形に落ち着いた。



「今日も旨そうだな、春の弁当」
「そうですかね、ありがとうございます」



 穏やかに笑う雛形先輩は、一見して不良には見えない。
 艶やかな黒髪に、ちょっと着崩された制服、そんでもってやはりというか美形。細めの黒縁眼鏡が相俟ってクールな感じである。
 でも喧嘩はするし喫煙者だし。なんか個性豊かな不良だ。不良っぽくない。

 何だかんだ美形ばっかで場違いが否めない俺。類は友を呼ぶんだね。やだやだ。



 毎日弁当だった俺は、つい二、三日前から暮中の弁当も持ってきている。
 つまみ食いを良くされて、面倒になったから作ってきたら、驚きもあったけど何だか嬉しそうで絆されたというか。ついでに作るのには問題ないから良いんだけど。

 ずいぶん前に母を亡くしてから父子家庭で、忙しい父親のために代わって家事をし始めたら何故かハマった。
 それから父親の弁当と一緒に自分のも作ってるわけです。因みに暮中の弁当の食費は、半ば押し付けられたけど有り難く貰ってる。まだ数日だから一週間分。



 雛形先輩と遊木は購買で調達したお握りやパンで、たまにおかずを分けたりパンを貰ったり、何だかんだ楽しい昼休みである。



「んん、やっぱり春ちゃんの卵焼き美味しい。好きだなぁ」
「良かった、ありがと」



 多目に作っていた卵焼きを蓋に乗せて二人にお裾分けすると、二人とも本当に美味しそうに食べてくれる。作り甲斐がある。


 本当に、不良って言われているのが不思議なくらい、のんびり平和だ。
 たまに傷を作ってる時だけ、改めて認識する。

 つってもまだ一週間だから何が起こるとか無いんだろう。
 昼休みにしか会ってないし。



「春ちゃん夏休みの予定は?」



 空腹が落ち着いたのか、遊木が言った。
 そういえば、もう夏休み間近。午前中で帰るから昼休みにこうして屋上で御飯というのもなくなる。



「特にないかな。夏休みの課題は7月中に終わらせちゃうし」
「え、マジで?」
「え、マジで」



 小学も中学も去年の夏休みも、というか長期休業の時にある課題は大抵近いうちに片付ける。で、後は存分に遊ぶ、というのが昔から家の決まりである。
 自分が楽なのもあるけど、子供っぽい両親が遊びたがって色んな場所に連れていってくれるから、さっさと終わらせろというお達しがあったのだ。
 それから癖というか、終わらせちゃった方が楽で良いじゃんと自分でも思うようになった。


 大まかに、終わらせた方が楽だと言うと、遊木たちは感慨深そうに唸った。
 最後まで地道に埋めていくタイプなのか、と聞くと、遊木は笑って返してきた。



「長期ってどこも同じだから、喧嘩に巻き込まれやすくて、手につかないんだよねえ」
「……あー…」



 確かに、夏休みといえば…って納得してしまう。不良と呼ばれない奴らですら夏休みは夜更かししたり夜遊びとかしちゃうだろうし。
 そう考えると、有名な暮中と一緒にいる遊木は特に絡まれやすいんだろう。
 怪我とか疲労で課題にまで手が及ばないとか、ありそう。



「まあ、自業自得なんだけど。結局最後の一週間くらい引きこもって終わらせてるかなあ」
「なんか、ハードだな…」



 毎年ハードスケジュール。と笑う遊木。笑い事ではないがな。


 

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