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短編集(~2019)
13
 

 誰も声を発しない、クロスケすら目を見開いていて。
 クロスケに関しては仕方ないことだけれど、この学園に在籍するほとんどの生徒は知っていることだ。
 持ち上がりしかいない高等部は特にな。

 規模の大きいこの学園は、基本的に地方自治体に設置されている教育委員会の介入しづらい場所にある。
 だから学園も管轄内に入っている自治体は、学園専属の教育委員会を設置した。
 上層部はもちろん大人だが、理事長は大きすぎるこの学園生徒の生活事情や秩序を詳しく調査する為、いち生徒として学園に通い、同じ目線で内情を調査させる事にした。


 「皇帝」はその教育委員会調査担当班の班長として作ったもので、表向き生徒会総括、実際には情報収集のために自由に動ける立場の生徒として、調査と怪しまれないようにしただけ。
 その為に高等部入学前に、個人面談が必須。まあ、等分ごとだから持ち上がり前の個人面談として当たり前だと思ってくれていただろうけど。



「我々調査担当員は、一般生徒に各クラス一名、各委員会に一名、風紀に一名、生徒会に一名、予め配属されていました」



 本来、教育委員会調査担当員は卒業まで極秘なんだが、今回は理事長直々に、存在を教えることを伝えられた。
 それほどまでにクロスケの影響が学園にも高等部にも広がっているんだろう。



「じゃあ、生徒会の担当って、」



 ここではじめて、村山書記が口を開いた。
 その視線の先には───おい欠伸してんじゃねぇよ注目されてますから。



「僕ですが、なにか?」



 気付いた巧が笑う。
 今までと違ってぱっちり目を開き、姿勢正しくきっちりとして、雰囲気もまるで違っていた。
 巧は俺の、可愛い癒し系だからね。



「ただ僕は、主人の付き添いなだけですけれど」

「え?」

「───牧村巧は、平塚真琴の執事兼秘書でもあるんだよ」



 村山書記の疑問視に答えるように言ったのは、穏やかな笑みの理事長でした。
 つかそこまで言うんかい。



「それは、どういう……」



 今度は副会長が、戸惑い気味に言った。



「君たちも知っているだろうが、牧村は代々、平塚の執事兼秘書として支えている。
平塚家は学園管理の総責任者の家系───つまり先代が学園の設立者であり、兼任して、教育委員会の総括ね。真琴くんのお父さんも、学園の生徒で調査員だったんだよ。だから私は彼を調査員に選んだ。「皇帝」である近衛律くんは真琴くんの幼馴染みらしくて、適任だからと推薦してくれたんだ」



 なんとまあ、全部言って下さいましたよ理事長殿は。いいけどべつに。


 なめからな動作で巧と律が俺の近くに歩き、それを数多の驚愕の眼差しが追う。
 美形に囲まれた俺、超場違い。
 他の調査員も立ち上がり、それに驚いた近くの生徒が、まさかお前が!?っていう表情に、魚みたいに口をパクパクさせている。



「───そういうわけで、あんた達がどんなに言い訳しようと、無駄な努力だったわけだ。一緒に居たいんなら、居させてやるよ?好きなだけな」



 そう言って笑うと、当事者たちは絶望し、クロスケは膝を折って崩れ落ちる。
 それを間一髪で支えた会長は、本当は根っからイイ人で傍若無人ではないし、責任感があって全生徒が認めた会長でもあった。




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あきゅろす。
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