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短編集(~2019)
07
 

 ───ここ二、三日の間に、生徒たちの間である噂が広まっている。

 学園にある制度のひとつに、「皇帝制度」というものがあるのだが、その「皇帝」に任命された生徒は基本的に神出鬼没で周りに無関心、無干渉。
 実質学園の生徒をまとめて統括しているのは「生徒会」だが、そのさらに上に立つのが「皇帝」だ。


 「皇帝」にはあらゆる権利がある。
 立場は中立だが、それ故に重要役職に就く生徒の監視はもちろん、それらの解任や就任の権利を持っている。
 ある程度の処置や処罰も許可されている、理事長の真下に位置する総括者ともいえる。
 そんな「皇帝」だが、最近よく生徒の前に姿を現しているようだ。
 殆どが、生徒会や風紀などの役職持ち生徒の近くに現れるらしいが、時々ひとりでふらふらしている姿も目撃されているらしい。


 「皇帝」の外見は、この学園にいる美形達を凌駕するレベルで見た目も声も質も雰囲気も、高校生とは思えないものだという。
 



 プライドがばかに高い奴らからしたら、目の上のたん瘤のようなもんだ。
 生徒を束ねているのは生徒会である自分たちなのに、その上に、同じ年、あるいは年下の生徒が立っているのだから、心中計り知れないものだろう。
 まあ、んなこと知ったこっちゃねえが。



 突然姿を見せるようになった「皇帝」に、生徒会連中の雰囲気は最悪だ。
 まあ、仕事してない事がバレているんじゃないかっていう焦りかどうかはさておき、いつにも増してクロスケにべったり。


 男の勘ってやつ?
 クロスケが取られるんじゃないかって危惧してるのか、会長と副会長は特に警戒心が強い。
 最近は生徒会室に行くことが増えたが、まあ、仕事はしてないよ。
 たぶん「皇帝」が来た時に備えてのことだろう。努力虚しくバレバレだけどな。



 ちなみに俺はクロスケに例外なく生徒会室に引きずられて来ているが、その時の巧の目の輝きといったら。
 他人には分からないが、俺には見えた。
 あのわざと半開きにしている目の奥の溢れんばかりの輝きが。ホントかわいい。


 相変わらずクロスケの拡声器は絶好調だが、巧は素知らぬ顔だ。耳栓してんのかあいつ。



「真琴!そんなとこに立ってないで、お前もこっち来いよ!!」

「い、いや、僕は良いよ、大丈夫」

「なんでだよ、このお菓子うまいぞ!!」

「これはあゆむの為に用意したものだから、あゆむだけが食べていいんだよ」

「可哀想だろ!分けてやらないと!」



 余計なお世話だクロスケ。俺は甘いもんキライなんだよ。全部押し込んで拡声器塞ぐぞコラ。
 俺は可哀想な一般生徒なの。
 生徒会に恐縮してソファーの横に立ってる凡人なの。ほっとけや。


 そして生徒会二人とも睨むなや。目潰しすんぞ。


 俺の心中大荒れなの。俺の海は大時化なの。明日が楽しみで楽しみでもう、今この場で叩き潰したくなるくらいなの。
 でも、「皇帝サマ」はちゃんと明日に備えて準備して、この茶番を、学園を生き返らせる為にお仕事してんの。


 「皇帝」が動いて、それを警戒しているこいつらは、一体何を考えて、何をしようとしているのか。
 クロスケをどうするのかな。


 

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