短編集(~2019) 02 音楽を流して、ヘッドフォンをつけて、パーカーのフードを被って、飛び出して行った恋人を追うように外を歩く。 どこに行ったかなんて知らない。 でも、見つかる気がした。 低く轟く音は、さっきより大きい。 雨はさっきよりも、強い。 ゆるいジーンズのポケットに手を突っ込んだまま、辺りを見渡す事もしないで歩く。 他人が見ても、人を探してるなんて見えないくらいマイペースな歩み。 けれど俺は、焦っているんだ。 どこかで怯えながら耳をふさいで縮こまっているあいつが、心配だから。 人の少ない公園。 屋根のある、遊具の奥。 膝を抱えて、腕の中に耳まで頭を減り込ませたあいつの後ろ姿。 なにもかも聞こえないようにと、願っているかのように。 びちゃびちゃなまま、ゆっくりと公園の中に入り、あいつの後ろに向かう。 低く轟く音が、破裂したような爆音で、あいつの肩を揺らせる。 ひっ、って声が聞こえて、ふわりと口元が緩んだ気がした。 ------------ 雨は死ぬほど大嫌いだ。けど、あいつが一人で雷に堪えるのは、もっと嫌いだ。 空に、雷に、殺気を飛ばす恋人は、怯える愛しい人の後ろに立つ。 [←][→] [戻る] |