短編集(~2019) 02 ─── 困ったなあ。いや、困った。 視界を埋め尽くさんばかりに茂る黒い毛と、それを取り囲むキラキラ集団を前に、俺は困った。 いや、こいつらが目の前で真っ黒クロスケ(仮名)を構い倒すのと、クロスケ(仮名)がそれを満更でもなく受け入れて騒ぐ事には、流石に2ヶ月経てば慣れるってもんだ。 2ヶ月ほど前に時期外れの転校生としてこの全寮制男子学園に迎え入れられたクロスケは、その類い稀な外見と利己的な言動で、1日───いや半日で学園の異端分子として認識された。 不潔な外見はもちろん(人間の第一印象は外見から入るし)、小学生のガキ大将かよ、と言わんばかりの身勝手さ。 加えて(これが学園で一番重要)生徒会御一行(一人除いて)の興味と関心は疎か、今まで唯一を作らなかった奴らが一人を奪い合うように好意を(一部は好奇だが)持っている事が、この閉鎖的な男子学園を混乱に陥れた。 閉鎖的といえば不自由なものだが、この学園は初、中、高、そして少し離れた場所に大学までもがあり、初等部と大学は選択寮制度、中等部と高等部は全寮制度が設けられている馬鹿デカイ私立学園なのだ。 離れて建つ大学は共学だが、高等部まではがっつり男子校。 思春期真っ只中を男子に囲まれて過ごせば、機会的同性愛がうまれる。 まあ、機会的だから大学に入ってしまえば女はいるわけで、そこで異性に行くか同性のままかは個人的なものだからと黙認されている。 不純交遊を制限、抑制するための同性校なのに、意味はなかったらしい。 ただそれは内側だけで、外から見ればただの男子校だ。坊っちゃんが多いから、世間体なんかは一応考えているようだ。 いやはや、残念すぎる。 その同性愛者ばかりの高等部の中でもやはりモテ男どもはいる。 奴らは大抵役職持ちか、別の意味で名前や顔が知れ渡っていて、まあ、いわゆる美形というやつだ。そういう奴らは、同じ美形でも女のように(一部は女よりも)可愛い男に恋心を持たれ、アイドルのファンクラブよろしく親衛隊なんかが出来ている。 その中心、一番有名で、規模がデカイのが、生徒会と風紀。 特に生徒会は美形集団で、どこのアイドルグループだ、と突っ込みたくなるレベルで顔がよろしく出来ている。 高校生なのに、もう完成品なのだ。 話しは逸れたが、そのみんなのアイドル的な生徒会が、2ヶ月前に現れた不潔な外見と幼稚な性格という相性の悪い組み合わせを兼ね備えた転校生に、丸ごと(一部は違うが)興味と好意を持っていかれた。 特に酷いのは生徒会トップ二人、会長と副会長だろう。 二人は特別息が合っていて、傲慢で俺様体質な会長と、静かで腹黒い副会長。まあ、会長の無茶を抑止したり出来るのは副会長だけと言われているくらいだし、さながら社長と秘書のようなものだ。 そんな二人が、いまや恋敵ときた。 そしてその盲目的なレンアイが、学園の秩序と安寧を乱している。 つまり仕事をまったくしていないという、ただの職権濫用者に成り下がったわけで。いまや生徒会の業務は、たった一人の生徒が担ってる。 こんな奴らが会社の社長なんかになったら、その会社はもうブラック企業の上位に割り込むだろうな。そんな会社で絶対働きたくない。 そんな奴らを周りより近くで視ている俺は、まあ、あれだ。 転校生に気に入られた(巻き込まれた)ただの一般生徒っていう立場なんだよ。 でも、俺が困っているのは、そんな救いようのない奴らの戯れを間近で見せられてクロスケに引っ張り回されて挙げ句に生徒会の親衛隊やらの反感を場違いに八つ当たりよろしく食らっているってことじゃないんだよ。 そうほら、あのさ、あれだよ。 つまり、あれ。 飽 き た。 [←][→] [戻る] |