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短編集(~2019)
秘密のお遊戯。
 


 ───学園が死んでいる。
 学舎としての機能が、学生としての秩序と意識が。



 そもそも“彼ら”は学園に長く在籍しているせいか、錯覚、或いは誤認している。

 “彼ら”にとってその狭いセカイの中が全てであり、一昔前の独裁政権のように、ひとつの国のように、自らの上に立つ存在を認識し、崇拝し、尊敬し、羨望し、憧憬し、そして畏怖している。


 世界はこんな小さな檻の中では終わらないのに。
 けれど“彼ら”の世界は、眼前にあるそれらが世界であり、全てであり、間違えようのない証明だった。



 そんな“世界”に、変革を示唆するような存在が入ってきた。
 変革は善と成るか悪と成るかは分からないけれど、この目で見て耳で聞いてきた限りでは“それ”は“悪”だった。


 学園という世界の中の住人達のうち、僅か1割がソレを善とし、残る9割が悪と認識したのだけれど、その僅か1割の住人達が皆揃って学園の独裁社会の中で上位に立つ権力者のために悪は悪と成りきれず、けれど善にも成りきれてはいない。


 もし、僅か1割の彼らがソレを悪と認識してしまえば、ソレは紛れもなくこの世界の中で完全な悪に成り、この世界から除外される。
 ソレを悪とする“彼ら”はそれを望んだ。
 崩れていく今までの生活と、ある種の安寧を壊すソレが、“彼ら”にとっては重罪人であり異端者なのだといくら訴えようとも、1割は聞く耳も持たず雑音として今までの対応は夢や幻だとでも言っているかのように、その全ては酷く冷たい。



 しかし1割の彼らも誤認していた。



 長く続く学園の歴史の中で、全生徒の上に立つことを認められた組織の一人として選ばれ、相応の職務を全うしてきた彼らもまた、学園を世界として、全てであると錯覚したのだ。
 己は絶対的存在であり、世界の価値であり、成すことは正しくあるのだと、学園生徒という足下ばかりを見ては自負をする。
 滑稽で浅ましくも、彼らはそれを信じ絶対とした。

 自分達が一般生徒の上に立つように、生徒会の上に立つものがいる事を、行動を干渉されず、会うこともないせいで、その存在を意識の外に追いやっていた。






 さて、ここで俺の話をしよう。
 この学園社会の中で俺は、眉目は目立たず派手な行動をしない一般的な人間だ。
 成績は上だが、それだけ。
 それが、他人から見る俺の印象。


 そんな俺には親しい友人がいる。
 彼はこの学園で容姿も目立ち、その一言にかなりの影響力を持っている人間だ。
 そんな彼と俺は学園においてお互いに知らぬ存ぜぬの関係である。

 親しい友人なのに何故か、という理由には、特に深い事情もないただの暇潰しのお遊びであるからだ。


 騙しているわけじゃないさ。
 ただ言わないだけで。
 彼の周囲を、学園の生徒を信用してないわけじゃないさ。
 疑ってもいないけれど。


 そう、これは彼と俺との二人だけのお遊び。
 この学園に入る事が決まったその時にお互いに考えた、ゲームでしかない。


 さあ、遊ぼう。
 つまらないと嘆くなら、己の手で面白おかしくすればいい。
 その為の学び。そのための知恵、知識。
 無駄なものなんてないんだ。
 例えこれが延長線上の遊びでも。ただ全うするだけじゃ、つまらないだろ。



 知恵や知識に無駄なものがあると思っているのは、使い方が下手くそだからだよ。



──────
アンチ王道 脇役性悪主人公

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