短編集(~2019)
03
「いーやーだー!」
「うるさい」
俺にとってはいつも通りの午前授業だった。
しかし前の席に座る幼馴染みは、ブルブルと肩を、というか全身を震わせていて教科担任までも心配されていた。
そして昼休み。
席を立とうとしない幼馴染みの前に立ち、その肩を掴む俺。
クラスメイトたちはそんな俺らを心配そうに見て、時おり声をかけていたが。
「こんちは、岩国新(いわくに あらた)っているー?」
不意に聞こえた、軽そうなユルい声に、幼馴染みを立ち上がらせようと二の腕を掴んだ手から力が抜ける。
同時に、奴の肩が大きく揺れる。
窓際の真ん中に宛がわれた席で、扉側から聞こえた声に背を向けていて振り返れば、そこで初めて異変に気付いた。
さっきまで騒がしかった室内が、しん、と静まり、殆どの視線が教卓側の左扉に集中していた。
そこにいる人物に、一瞬状況が理解出来ず首をかしげたが、次に出てきた言葉に状況を把握することが出来た。
───柴田 優(しばた ゆう)。
この高校、いやここら地域で有名なチームの総長、の、相棒。
緩やかなウェーブの、オレンジに近い茶髪は、彼の雰囲気によく合っている。話し方も動きも緩やかだが、総長の相棒というだけあって喧嘩は強い。と、いう噂。
そんな彼が、岩国新を探している。
二年生が一年生の教室に、しかも不良が来るなんて滅多にない。彼、いや彼らは特に。初めてだろう。
不良な先輩はキョロキョロと室内を見渡してして、しかしクラスメイトは全員硬直化。朝の下駄箱で見た彫刻化した幼馴染みのようだ。
しかし、それはすぐに破れる。
ばちっ、と、不良先輩と目が合った。
そして彼は、にこりと、いや、にやりと笑って、口を開いた。
「みーっけた」
いや、俺、岩国新じゃないけど。
「いやー、来ないかもしれないから迎えに行けって言われてさあ」
屋上に向かう廊下で、少し前を歩く不良先輩、基、柴田優先輩は、人当たりの良い笑顔でそう言った。
そうですか、と自分から見ても、あっけらかんな返事をするそんな俺の後ろ、腕をがっちりホールドして震える幼馴染みは、もう顔面蒼白だ。
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