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短編集(~2019)
02
 

 幼馴染みと俺がこんな状況に身を置くようになったのは、一週間前の登校時、下駄箱に入った上履きを手につかんだまま固まった幼馴染みのアホ面から始まる。
 本当はもっと以前からなんだろうが、俺がそれを知ったのはその日だからそれでいいだろう。そうしよう。


「なに」
「……」


 170ぴったりの身長である幼馴染みの肩の高さにある、宛がわれた下駄箱に腕を伸ばしたまま固まる幼馴染みに声をかけるが、当人は手元を見つめたままだ。
 ため息ひとつ上履きを履き、横にいる彫刻体の上がる腕に手刀を落とした。


「痛っ!」


 そんな声と共にがくん、と腕が外れ、上履きが落ちる。
 同時に、ひらりと紙が揺れ落ちた。


「……」
「……」


 二人して、足下の間にある落ちた紙を見る。
 ふと顔を上げ隣を見ると、すっとぼけたアホ面の幼馴染みが未だ足下を見ていて。

 ため息ひとつ、紙を拾い上げた。


「……あ、」


 二つに折り畳まれた紙を広げ、書かれた文字を目で追う。その内容に思わず溢れた声は、幼馴染みの肩を震わせたようだ。


「な、に、…それ、」


 ビビりすぎだろ、と突っ込みたかったが放置して、ひらりと紙を顔面に向ける。
 くっきりとした二重の瞼が二、三瞬き、黒目が文字を追う。…追うにつれ、元々男にしては大きな目がこれでもかと見開かれ、目が合う。


「…『昼休み、屋上。』」


 たった六文字のそれを、わざわざ声に出した幼馴染みから目をそらさずに紙を折りたたみ、奴のブレザーのポケットに捩じ込んだ。
 びくっと大袈裟に身を震わせたチキンに、俺は滅多に表に出さない笑みを浮かべる。


「……おい」


 ひくりと口を引きつらせた幼馴染みに、今度は優しく優しく微笑んだ。

 すると奴の顔はサッと青ざめ、ふるふると顔を横に振ったが、俺も同じように横に振った。勢いは幼馴染みの方が強いが、やっていることは同じだ。


「い…いやだ…!」


 半泣きの幼馴染みは、震えた声で言う。
 いつまでも下駄箱にはいられないから歩き出せば、戸惑いながらも小走りで隣に並んで、生まれたての小鹿よろしく震えていた。




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あきゅろす。
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