短編集(~2019)
決して趣味の為に動いたわけではない。
日常って、常日頃、慣れてしまった光景、言動、その周囲がまるで繰り返されているかのような錯覚のことだと思った。
会話の内容も、その体の動きも、全てが同じではないのにも関わらずそれを知っているにも関わらず。
そんな錯覚から一歩横にズレてしまえばその日常には、非が付いてしまう。
今まで無かったこと、今まで知らなかった事実、今まで変わらなかった周囲に変化があっただけで。
そうだ、それはただの変化だった。
毎日毎日変化はあるのに、たったひとつ大きな変化があるだけで、そこは今までとは違った日常だと、また錯覚する。
毎日錯覚する。
だから、たぶん、俺の目の前で動くその光景も、ただの錯覚で、非日常ではないんだと。
「相変わらずカタいなぁ、あそこ。ねぇ?」
「……そうですね」
あれもこれも錯覚。
そんな、そんな、───現実逃避。
「一週間経っても慣れないかー」
「ですね」
「キミはこんなに落ち着いてるのにねー」
「ですかね」
「冷たいなぁ」
いやこれでも頭の中ブリザードでブルブル震えてるんですがね、表に出てこないだけで。ああでも冷たいってのはきっとその冷気が漏れ出てるんですよきっと。
なんて脳内では言葉が溢れてるのに、声になるのはほんの一部。
少し離れた場所で縮こまる幼馴染みと、その隣で必死になってる先輩を見ながらそんなことを思う。
そしてその光景を見るようになって、俺の隣でユルい雰囲気を持つ先輩とのやり取りも、一週間。
この公立高校内で、果てはここら辺の地域一帯で恐れられているという、有名なチームの総長で、個人でも有名な人が、幼馴染みに恋をしたらしいという、そんな変化。
茶髪でピアスも左右ひとつずつで、長身で顔も格好よくて、目付きが悪くて喧嘩が強くて無愛想であまり喋らない。
のに、チキンな幼馴染みから必死に恐怖を拭おうとしている、そんな総長さん。
幼馴染みは、普通だ。
身長、体重、勉強、運動。あ、でも見た目はちょっと可愛い系。二重だし。
そんな、普通の幼馴染みに惚れたらしい、総長さん。
そしてそんな総長さんの相棒として有名な、俺の隣の、ユルい先輩も。
「ヘタレ不良×チキン平凡、いいね」
「いいですね」
普通じゃ、ない。
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