短編集(~2019) 季節は嗤いながら俺等の前を過ぎて行く。 ───あぁ、切ないな。 夕方の別れ際の、 いつもの時間がやけに寂しく思う。 放課後からあの別れ道まで近付くと、もやもやに占領されてくんだ。 「水無瀬!いっしょ帰えろーっ」 「うっさいバカ原!」 開け放った教室のドアと同時に、なぜか山本に怒鳴られた。 バカ原じゃないし川原だし。まったく神経質なんだから。 俺が求めてやまない人物は、いつもと変わらず無表情で静かにこっちを見てて、目が合ったと思ってついニヤけてしまった。 「川原君、さっきまで体育だったのに元気だね」 鞄に必要なものを詰めながら、水無瀬は微笑してて。 それが可愛くて好きだったりする。てか水無瀬の全部が好き。 ねぇ、俺ら両想いなんだよね。俺、すっごい幸せなんだ。 「山本、今日のラッキーカラー、ピンクなんだ」 「うるさい」 占いにドがつくほどハマってるらしい山本は、その日のラッキーカラーを必ず身に付けてる。 今日はピンク色のタオルが山本のスクールバックから顔を出してた。いや似合ってるよ山本。ピンク山本。 「それじゃあ山本君、また明日」 「あぁ、襲われんなよ」 「ちょ、誰の事言ってんの!?」 「お前に決まってるだろ、バカ原」 「えー!?ひどくね!」 「うるさい、さっさと帰れ」 なんだよなんだよ、プリプリしたいのは俺だし!ピンク山本め。 いくら俺でも野外で盛ったりしないっつの。襲っちゃいたいくらい可愛いんだけど! 「今日はいつもより機嫌が良いね?」 「んー、そう?」 夕暮れ色の空を見ながら、ゆっくりゆっくり歩く。 でも、幸せなのに切なくなる。もやもやする。 月曜日から金曜日の帰り道がやけに寂しい。 切ないな。ああもう、どうしよう。 「水無瀬とこうして手を繋いで歩くのが幸せなんだよ」 「オレは恥ずかしいんですけど?」 「大丈夫大丈夫、気にしない気にしない」 そう言って、握る手に力を込めれば、同じように握り返してくれる君が好きすぎて、ヤバい。 [←][→] [戻る] |