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14.僕のココロ君知らず


肴になるような話を聞かせろと騒ぎ出した滝川と綾子に、安原は惜しげもなく数日前の出来事を語った。引きずっているのかもしれない。
2人は渋谷と麻衣が付き合い始めたことすら知らなかったようで、それはひどく驚いていた。




「そのままあっさり引き下がっちゃったわけ!?」
「はい。」
「相手は傷心中なんだから、そこは付け込むべきでしょっ!」


酒の入った綾子に、安原も滝川も苦笑した。
1本、また1本と瓶が床に転がるうちに、綾子の言葉は到底理解出来ないものへと変わっていく。飲み過ぎだ。
言い散らしたほとんどは、知らなかったという事実に対する愚痴ばかりだったが。



「で、どうすんだ?」

それは滝川自身、残酷な質問だと重々承知していた。
安原の顔を見られず、酔いつぶれた綾子の肩に上着を乗せることでごまかす。

「ノリオに慰めてもらおうかな〜と。」
「おい、そうじゃねぇだろ。」

こんなときまで笑顔でいる必要がどこにある。自分の周りにいる女を見習え。
トンと安原の頭に平手を下ろし、滝川は続けた。

隣で寝ちまうほど図太い神経を持った綾子。
自分の思いにどこまでも素直だった真砂子。
やっと新しい恋を始めた麻衣。


「正直に生きろ。な?」


安原は、声を出して笑う。


「滝川さんが手本を見せてくれるなら。」
「・・・バカ言え。」

ビールを飲み始めた滝川にならい、安原もまた、ぬるくなってしまった酎ハイへと手を伸ばす。


「女性が強い限り、男は皆、不器用なままなんですよ。」


その言葉は誰に向かって発されたわけでもなく。
ましてや返事を求めたわけでもなく。


──── 残ったのは、2人の喉を潤す音だけだった。


























「恋を、していましたの。」


瞳を切なげに揺らし、口元で緩い弧を描く。息が詰まる。

「もう、まったく敵いませんのよ、笑えますでしょう?」

かける言葉が見つからず、視線だけ下へと逃げた。

勉強ばかりで、気遣う言葉を忘れてしまったのかもしれないな。
それこそ、笑えてしまう。


「笑って下さいまし。」


凛とした声。惹かれるように、また顔を上げる。
自嘲にも似た表情。
けれど、今の彼女は他の誰よりも綺麗だろう。


「あたくしは満足ですの。十二分に女を磨けましたわ。
 新しい門出を、一緒に笑って下さいまし。」

「・・・はい、僕でよければ。」


僕では悲しみから救えない。
だから今は、貴女のために笑います。


「ありがとう、安原さん。」
「どういたしまして。」





のココロ 知らず

(僕は恋をしていた貴女だから恋をした。)





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