白と黒
守り人
翌朝…アリアは泣き疲れて珍しくぐっすりと眠っていた。
そこに忍び寄る陰。
それはデーゼだった。
アリアの頭をひとなですると、近くのテーブルに朝食を置き、物音一つたてずに部屋を後にした。
「デーゼおはよう!」
「おはよう…。」
同じくメイドとして働く者に挨拶をし、デーゼは自分の仕事場に入る。
そこには部屋掃除の道具がぎっしりとあり、どれも綺麗に扱われていることが一目で分かる。
そこに、何人ものメイドが集い、次々に道具をもってデーゼの所へと急ぐ。
「今日は村長様が午後から来られるので、朝のうちに庭の手入れ、部屋の掃除、キッチンの者はお茶の準備を進めるように!」
「はい。」
そう言うと皆はそれぞれの担当の所へと散らばり、残ったデーゼも掃除道具を持ち、部屋掃除にはいる。
そう…デーゼはメイドの中での指揮者の様な役割を果たしていた。
デーゼが働きだしてもう7年は経つだろうか…。
デーゼは一階の応接間を何人かのメイド達と一緒に掃除をしていた。
「ねー、アリア様聞いたー?」
「聞いたわ!森に行ったんですって?恐ろしいわぁ。」
「アリア様も何日間か出られなくなるみたいね。」
「でも、無事だったのが何よりよね。」
「そうねー。」
陰でこそこそと話すメイドを睨みながら、デーゼはクロスを張り、絨毯を替えと仕事を淡々とこなしていった。
人数もいたため、応接間はさほど時間が掛からず終わった。
そのあとは皆別々の部屋を掃除するため、行動を別々にとった。
デーゼも準備をすると、応接間を一通り見渡して部屋を出た。
「…急がないと。」
小声でそう言うとデーゼは足早に目的の部屋へと急いだ。
机を拭きながらデーゼはため息を吐く。
普段とは違い、手を時々止めながら考え事をしていた。
「…どうしてこうなるのかしら。」
気づくとため息ばかりが出て、デーゼは仕事に集中できない様子だった。
「思い出したくもない、あんな事。」
そう呟くと、頬を軽く叩き仕事に集中しはじめた。
そこからは仕事は早く、次から次へと部屋をまわり、掃除をこなしていった。
気づけばお昼時、部屋の掃除も終わり、庭で掃除をしている人たちも皆それぞれの道具をしまっていた。
デーゼも片付け作業に取りかかり、自分の道具を片付けると、後のメイドに任せアリアの元へと急ぐ。
扉をノックするが、アリアの声は聞こえず、デーゼはそっと扉を開いた。
「…アリア様起きていらしたのですか?」
アリアは窓際の机でいつも読んでいる絵本を読んでいた。
アリアはデーゼに気づくと本で顔を覆う。
どうやら泣いていたようだ。
「…アリア様食器お下げしますね。」
「…うん、ありがとう。」
デーゼは食事を下げると、アリアの方に向かい直り、一礼すると扉を開けて部屋から立ち去ろうとした。
「ねぇ、デーゼ?」
その時、アリアが疑問をかけてくる。
「どうしたのですか?」
「私達は…皆、同じ魔法使いなのに…どうしてお互いを拒むのかな?」
アリアの疑問に…デーゼは…なんというか、複雑な気持ちにさいなまれる。
「…そ、そうですね…でも、アリア様?いつも絵本を読んでくださっているではありませんか。」
「う、うん…でも、やっぱりあれはね…皆で背負うべきだと思うの…黒魔導師さんばかりのせいにするのは…違うと思う。」
「……アリア様はお優しいのですね。」
デーゼは小声でそう呟くと、アリアは聞こえなかったようで、もう一度聞き返すが、デーゼも何食わぬ顔で、部屋をあとにした。
「失礼致しました。」
部屋の扉をゆっくり閉めると、扉に背を向けて少しの間ボーッと天井を見つめる。
(黒魔導師さんのせいばかりにするのは違うと思う)
アリアの言葉がとても嬉しい…でも、反対に…悲しみが押し寄せてくる。
「…生まれ変わったと思ったのに…。」
デーゼはそう呟くと食器をしっかり持ち、落とさないように足早に部屋を後にした。
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