白と黒
森の手招き
コンコン!
「アリア様朝ですよ。」
朝、一番にメイドがアリアの部屋をノックした。
「はい。」
アリアは既に着替えており、扉が開くと同時に出てきた。
「さーお母様に挨拶に行きましょう。」
「うん。」
アリアはメイドの後を小走りで付いていく。
ここはいわゆる魔界
その中でも黒魔導師と白魔導師がいる。
アリアは女王白魔導師の一人娘だった。
父親は何年も前に息を絶ったらしい。
「お母様おはようございます!」
「おはようアリア、今日はどこがお出掛け?」
アリアと同じ金髪の髪を腰まで流し、お茶を飲んでいるのがアリアの母、この国の女王の富江だった。
「そうなの!今日はね!道具屋のお祖母ちゃんがお菓子を一緒に作ろうって言ってくれたの!だからいってもいい?」
アリアがはしゃぎながらいうと、富江は優しく微笑みアリアの頭を撫でる。
「いいわよ、行ってらっしゃい、美味しいお菓子が出来ると良いわね。」
「うん!お母様にも、もってかえるね!」
「ふふ、ありがとう。」
そう言い残すと富江は誰かに呼ばれその場を立ち去った。
すると近くにいたメイドのおばさんがアリアに話しかける。
「さぁ、アリア様遅れますよ?お供しますので一緒に行きましょう。」
「私一人でも大丈夫よ?心配しないで、お祖母ちゃんの家はすぐそこだから。」
「ですが…あらら。」
アリアはメイドの言うことは耳に入っていないようで、すぐに支度をするために部屋に急いで戻っていった。
メイドはその走る後ろ姿を見て、少し寂しそうな表情をしながら自分の仕事に入っていった。
部屋ではアリアがリボンで髪をくくりかごの中に色々と詰めていた。
「えーっとー、ハンカチにこの間のお菓子にあと…。」
物が詰め込まれた鞄をアリアは少し重そうに持ち上げ、ベッドの近くの棚に飾ってあった白いフリルの付いた帽子を深く被り、部屋を後にした。
所々でお手伝いさん達に会うたびに、アリアは小さくお辞儀をする。
「あらアリア様!今日は一人でお出掛けですか?大丈夫ですか?」
「うん!道具屋のお祖母ちゃんの家に行くの!一人で大丈夫だよ。」
「そうですが…気をつけて行ってらっしゃいませ。楽しんできてくださいね。」
いろんな人達が声を掛けてくれる中、アリアは足早に玄関へ着くと、大きな扉を重たそうに少し開き、外に飛び出した。
久しぶりの外の空気だった。
空は青く晴天で雲ひとつないとてもいい空だ。
アリアはなかなか一人で出掛けることができず、今回が初めてだった。
まるで、一人旅でもするかのようにいつも見ている風景が、変わって見える。
アリアは息を大きく吸うと、一気に目の前にある階段をかけ降りた。
階段を降りると門が見えてくる。
アリアは門番にすれ違いざま、「行ってきます!」と元気よく手を振り、走り去っていった。
「今のアリア様だよな…。」
「ああ…今日は一人でお出掛けか?」
「さぁ?」
門番がそのような会話をしてることなど気づかずにアリアはひたすら走った。
門を抜けたらそこは町が広がっていた。
家の中からは家族の楽しそうな笑い声。
美味しそうな朝食の匂い。
珍しいものでもないのにアリアはまるで初めてその場に来たように心踊らせていた。
真ん中の大通りを真っ直ぐ行くと、何人かの人はアリアだと気づいたが、まさか一人で町に来るはずないと思い、皆アリアが通りすぎるのを目で追っていた。
「?あれ?アリア様?」
「え?でも、一人じゃ来ないでしょ。」
「…それもそうね、こんな朝からね。」
アリアが一気に駆け抜け、町の端まで来るとそこから先は川があり、小さな古い橋がある。
その手前のおしゃれな家の目の前でアリアは足を止めた。
アリアは息を落ち着かせて、扉をノックした。
「叔母あちゃーん!きたよー。」
「…。」
中からは何も返答がない。
「…そうだよね、まだ約束してた時間より早いよね。」
アリアは周りを見渡し、近くにあったお店の時計をみる。
約束の時間は11時
今は7時。
早すぎていた。
「…うーん、いっつもお祖母ちゃん昼近くに起きるからなー、一旦帰るのもなー。」
その時アリアの視界に入ったのは、川の向こうの森だった。
鬱蒼としていて、町の皆は近づかない。
近づいてはいけないと言われている場所だった。
「…お祖母ちゃん、まだ起きないよね?。」
アリアは高鳴る気持ちを押さえきれずに、橋を渡り森の中へ入っていった。
「良いよね、ちょっとくらい。」
森の中は見たことのないきれいなお花や動物たちがたくさんいた。
「かわいい!あ!あそこにも綺麗なお花!」
アリアは花を摘もうとした時だった。
白い花に綺麗な紫と、黒色の蝶が止まっていることに気づき、声をあげないように、そーっと近づく。
「そーっと…そーっとあ!!」
蝶はアリアの気配に気づいたのか羽ばたいてしまった。
「ま、待ってーー!」
アリアも蝶の後を追ってどんどん森の奥へ入っていることに気づかなかった。
「…あれ?蝶々見失っちゃった…?…ここ…どこ??」
5分ほど走り蝶は見失ってしまい、帰り道も分からなくなってしまったせいか、アリアは少し慌てながら来た道を思い返して行く。
だが、なかなか思い当たる場所が見当たらず、方向感覚も分からなくなってしまった。
「ど、どうしよう…今何時かな?早くしないと、お祖母ちゃんの約束遅れちゃう…。」
その時だった、アリアは何かの音に気づき辺りを見回した。
確かに人が歩いている音がする。
「…誰?」
小さい声で見えない相手に呟く。
その足音はどんどん近づいてきて、アリアの後ろでピタッと止まった。
鼓動が高鳴り、後ろを振り返りたくても振り返れない、恐怖感で一杯だった。
「…あ、あの」
「お前誰?」
「きゃーーーー!」
声がした瞬間アリアは悲鳴をあげながら後ろを振り替える。
「…うるさい。」
少し怒ったような声がして、アリアは目を少しずつ開けた。
目の前には男の子が一人立っていた。
少しムスッとしながらアリアの方を見ている。
アリアは少し安心して頭を下げて謝った。
「ご、ごめんなさい、あのビックリして。」
「…はぁ。」
男の子はそんなアリアを無視して、歩き始めた。
アリアは涙目になりながら男の子の方を見ていた。
「あ、あのぅ…。」
「…。」
「うぅ…{怒ってるよ)」
一向にアリアの話を聞かずに進んでいく、男の子にアリアは戸惑いながら、森の抜け道を聞くことにした。
「す、すみません、森からどうやって出たら良いですか?」
「…知らない。」
「え!?でも、あなたも出るんでしょ?」
「どっか行け。」
「でも、私一人じゃ。」
「うるさい。」
「…。」
アリアは男の子の背中が消えるまでずっと見ていたが、怒らせてしまったし、仕方ないとため息を吐いた。
今まで見ていた景色が一変しどこに行っても入り口は見えないような気がした。
アリアは勇気を振り絞りながら反対方向へとあるきだした。
何分か歩いているとアリアは足をピタリと止めた。
「…ここ、さっきも通った気がする、どうしよう…。」
完全に迷子になったアリアの目からは涙が流れ始めた。
今までの事を後悔しながら、とにかく前に進み、あちらこちらを見渡していた時だった。
微かに水の音が聞こえる。
アリアはその微かな音を便りに、道を進んでいった。
すると向こうの方にさっきの男の子がいて、アリアは気がつくと、涙を流しながら男の子の方へ走っていった。
「うわぁ!」
「もー、怖かったんだよーー!」
アリアは男の子の元へ着くと目の前に座り込んで泣き出してしまった。
男の子もどういう反応をとっていいかわからずその場で驚いた様子を見せていた。
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