白と黒
エタンドル、もう一人の少女
「もう!はーちゃん、あんなこといっちゃダメだよ! あの子怒っちゃったよ!?」
アリアは女の子の姿が消えるとハリスに向き直る。
「俺たちの事を言ってもあいつには理解できないだろ?」
ハリスの正論にアリアも返す言葉をつまらせる。
「うぅ、…そうだけど…。」
「それに…ここは俺たちのいた場所じゃない…人間界って所だと思う。」
ハリスは辺りを見ながら淡々口調で話し出す。
「え?、わ、私も聞いた事あるけど…本当にあったんだ…じゃぁ、さっきの子は…人間?」
「だろうな…つまり、俺たちはあの女に異世界に連れてこられたって事だ。」
アリアはフムフムと頷きながら辺りを見回し、驚きの声を上げる。
「…えぇ!?ど、どうやって帰るの!?」
アリアの質問になかなか答えが見つからずハリスも困り果てていた。
「んー…それはわかんねーけど…とにかく今日は夜だし、こっちの事を知らないまま動くのは危険だ…どっかで夜を過ごすしかないな…。」
「そ、…そうだよね…あ!あのドームの中だったら雨風しのげるかもしれないよ。」
アリアは辺りを見回し、ドーム型の遊具を指差す。
「そうだな…とりあえずはあそこに今日は野宿しよう…お前は大丈夫か?」
その言葉にアリアは膨れっ面になり、ハリスの顔を見る。
「もう、なんではーちゃん、私の名前読んでくれないの?友達なのにお前って…。」
「い、いや、だから…友達になった訳じゃ…。」
「じーー。」
アリアはハリスの事をジト目で見る。
「……わ、わかったよ…次から名前で呼ぶから…あんまみんな。」
アリアはその言葉を聞くと、微笑み、遊具の中へと入る。
「…。」
ハリスもその光景を見て、ゆっくりと歩みを進める。
(まさか、こんなことになるなんて…)
さっきまであんなに悲しんでいたアリアは涙一つ見せない。
無理をしてるんだろうか?
それとも開き直っているのか?
ハリスはふと、母親の事を思い出す。
いつも笑顔だった母親の事を…。
(…バカだな…今こんなこと考えても…意味無いのに…)
ハリスは重い足を再度踏み出した。
先にドームに空いてある横の穴から入ったアリアはハリスがまだ来ないことを確認すると、こぼれ落ちる涙を必死に拭っていた。
「ダメダメ……これ以上はーちゃんを困らせたら……もう泣かない!!泣かないよぉ!……」
そう言いながら緑のシートが敷いてある所に座り、ハリスが来るのを待つ。
少ししてハリスも顔を出すが思ったよりも狭いことに気づき、顔がひきつる。
「……俺外で寝る」
その言葉にアリアは思わぬほど声が出る。
「え、えーー!! な、なんでぇ!?」
「いや、なんか狭いし」
ハリスは周りを見ながら細い目で答えた。
「それじゃ私が外で寝るよ」
「いや、それはダメだ。」
「えぇ……」
アリアが反論する前にハリスは近くにあった滑り台に横たわり空を見上げる。
(……以外と元気だな……良かった……っ!! って! なにいってんだ!! 俺は! 別にアイツの事なんかどうでもいい……今はお互い困ってるからな一時脱却だ)
そう自分に言い聞かせると、ハリスはゆっくりと瞼を閉じた。
アリアも渋々眠りに就くよう壁に凭れ掛ける。
……ア
??
聞き覚えのある声にアリアは夢の中で目を覚ます。
ーー誰か居るの?
ーー私よ、覚えてる?
アリアはゆっくりと後ろを振り向く。
だがその姿を見て背中に悪寒が走るのを確かに感じた。
ーーわ、私?!
そう、そこにいるのはアリアそのものだった。
ーーそうよ、私は貴女……貴女は私、思い出した?
何の事かさっぱり分からないアリアの表情を見てもう一人のアリアは笑みを見せる。
ーーそうよね、貴女がまだ小さい頃、物覚えのない時の話だもの、覚えていなくてもおかしくはないわ
ーーな、何の話?
ーー良いのよ、無理しなくて、悲しくて辛かったら私が消してあげるから♪ 無理しなくていい……そう、だって貴女は私の大切な……
器だから……
ーー!!
あなたは誰なの?
私?……そうね、エタンドル……そう呼ばれているわ……また会いましょう♪
そう言うと彼女はアリアに優しく抱きつくと、消えてしまった。
……消せばいい……
アリアの頭にはその言葉が巡っていた。
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