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真逆の言葉(3)


「なに、言って……おま、いいかげん冗談、やめろ。銃、おろせ、な?」
「言っただろ、本当に撃つって」

標的は最初からこちらだった。
退魔対象は、僕自身。
今さら祓魔師に戻れはしないけれど。

「な、んで……なんでっ!!!!お前がそこまでする必要ないだろっっ!!??」
「必要かどうかは僕が決めることだよ、悪いけど兄さんの意見に左右されることはないんだ」
「なんでお前はいっつもそう…っ!たまには人の話を聞け!!」
「それは、こっちの台詞。」

もう決めたんだ
ごめんね、と。
謝罪の言葉を口にしようとして止めた。
これを云うのはまだ早い。否、本当に伝えるべき言葉はこれではない。

やめろ、と尚も燐は言葉を続ける。兄のこんな声音を初めて聴いたかもしれない、と雪男はぼんやりと思った。

「俺は!!俺は…っもう、誰も失いたくない…!!」
「違う、失うんじゃなくて、力に得るんだよ。」
「うるせえ!!!!」

握りしめた拳から赤い雫がポタリと滴り地に滲む。ああ、また怪我をして。しようのない兄さんだ。

「そうじゃない!!そうじゃないだろ!?お前は自分のこと、何だと思ってんだ…!!」
「なんだろうね?もう、判らないな」

弟の本気を読み取った兄は不用意に動けない。周囲には何も、誰もいない。頼れるのは己だけ。

俺の、言葉だけだ。

「だったら、だったら教えてやる…っいいか、落ち着いて、良く聴けよ」
お前は、俺の
たったひとりの。

「もう、いいよ」
「雪男っ聴け!!」
「もう、いいから。」

もう僕に、闇に。
眼を向けることなんてないんだ、兄さん。
あの頃とは違う
もう、戻れない。

兄は覚醒し
養父は死に
僕は悪魔に落ち
そして、死に絶える

ひとつも望んでいなかったことが、こうして全て現実に起こってしまっている。
本当に自分は無力だったことを痛感し嗤ってしまいそうになった。

その間にも目の前の、青のやさしい悪魔は抑え切れないとでも言うような凄まじい炎を身に纏い、繰り返すように叫び声を上げ続けている。




養父が命を懸けて兄を守ったのは――
息子、だから。

ならば自分はどうだろうか。
この世でたったひとりの肉親だから
血を分けた双子の兄だから
家族、だから。

肩書きだけの理由なんていくらでも思いつくけれど、きっと…もっと単純な感情なんだとも思う。


兄さん、
僕は、ただ―

ただ、生きて欲しい。


この世に生を受けたのなら、この世界で最後の最期まで生き抜いて欲しい。そう思ったんだ。
自分の命を天秤にかけるまでもなく、強くそう思った。

悪魔でも人間でも
産まれたときから自分にとって燐は燐だったから。
この馬鹿な兄の弟として
産まれてきたことに、こんなにも感謝できるから。

だから笑える
笑って、逝ける。




神父さん――
これが、僕の答えだ






あの日、初めて雪男が燐に銃を突き付けた、祓魔塾初日のあの日。


―いっそ、死んでくれ



「ふふ、あの時とは真逆だ」

眼を閉じ唇だけを動かす。
誰の耳にも届かぬよう、密やかに。
今の自分はきっと生涯で一番穏やかな表情をしているだろう。



“生きろよ、兄さん”



結局僕は何者にもなれなかったけれど、
この願いだけは叶えてみせる。


―最愛の、たったひとりの家族の絶叫を聴きながら、雪男は静かに引き金を引いた






(ごめんね)




(ありがとう)






(でもやっぱり、ごめん)











(end)


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