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真逆の言葉(1)

※雪男悪魔落ち設定
捏造・死ネタ注意




























「それ、向けんなっつったよな」



暗闇に包まれた空間とそれに割り込むように吹く微弱な風。
不思議と寒さも暖かさも感じ得ぬその場所に対峙するのは、ヒトのかたちをした若き悪魔と、その弟だったはずの――

「兄に銃なんか向けんなって何度言ったら解んだおめーは」

不機嫌さを表にするも、己に向けられた凶器に臆することなく自身の血を分けた双子の弟を見据える。

「言われたっけ、そんなこと」
「言ったわ!お前メガネのくせに覚えてねえのか」
「メガネ関係ないだろ」
「ある!大いにある!」

鼻息荒く言い放つ兄に弟は隠そうともせず深く溜息をつく。
それでも雪男は愛銃を標的である兄に定めたまま、微動だにしない。

「緊張感ないなあ…」
「あってたまっか、くっだらねえ」
「本当に、撃つよ?」
「撃ちたきゃ撃て。けどそんかわし」

静かに鞘に愛刀を納める。
この力は誰かを傷付けるためのものではない。悪魔である己にその命を懸けて諭してくれた養父の姿が脳裏を過ぎる。
この力は周囲を護り、救うためのもの―
そう固く心に決め、剣を奮ってきた。
無論、これからも。

「そんかわし、力ずくででもお前を連れて帰る」

降魔剣は納めたはずなのに、その眼の青は力強く燃え続けている。一歩、また一歩とこちらへ近づく足取りに迷いなどない。
それを認めた雪男は穏やかに微笑んだ。

「もう大丈夫、だね」
「あ?」

安堵の吐息とともに銃を下げる。思った通りだ。もうこの兄に心配など要らない。

「つよくなったね、兄さん」
「…は、なんだよいきなり。ってか、あったりめえだ、魔神の野郎をぶっ倒すんだかんな。」
「うん、そうだね」
「ん、そうそう…って、ゆ、雪男?」

先程までこちらに凶器と殺気を向け対峙していた者とは思えぬ言動。この弟は自分達と離反していたのではないのか、と燐は目を丸くする。無論、如何に反発しようとも、例えその身を悪魔に捧げていようとも、力ずくで連れ帰るつもりではあったが。

「兄さんに聴いて欲しいことがあるんだ」

蒼い眼差しがこちらを真っ直ぐに射抜く。少しだけ声のトーンを落としたその様に、ああこれは。また面倒なことを提示してくるのだろう。長年この弟の兄をやっていれば、嫌でも解ってしまう。

「え?あ〜…判った。帰ったら聴くからさ、な?ほら、早く帰ろうぜ、雪男。」

迷いなく右手を差し延べる。
さっさと帰ろう。みんな待ってんだ。戻ったら戻ったで面倒くせぇこと山盛りてんこ盛りなのは目に見えてっけどよ、
もう、お前を不安にさせたりしないから。独りじゃないから。
俺ら、双子だろ?
生まれる前から一緒じゃねえか。


今さら独りだなんて、もう言わせない。



「今、この場で聴いて欲しい」

頼むよ、兄さん。
困ったように微笑み、か細く呟く弟のその台詞は。

「く、反則だろ…」
「え?」
「や、なんでも。」

くそ、天然なのか計算なのか。
どちらにせよ、もう俺に拒否権など無い。ああもう、こんなとこで使うなよな、その台詞――。これだからメガネは!

「判った!聴くよ。聴きゃいーんだろ」
「うん、ありがと」

くっそ、帰ったら事あるごとにその台詞言わせて口グセにしてやる。したらもう俺の天下だ、バカ兄だなんて言わせねえ。
クックックッと不気味に嗤う兄をよそに、ほっとした様にまた微笑んだ弟は少しだけ表情を引き締め、その良く通る声で語りかけてきた。




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あきゅろす。
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