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口実ティータイム (立夢)
企画 湶莉さまリク
「トーリス、トーリースっ!お茶を持ってきましたよ」

「毎日毎日ありがとう、name」

ティータイムセットを乗せた台車をがらがら押して部屋へ入ると書類から私へ目を移す。
優しい緑の瞳が私を映していると考えるとそれだけで嬉しい。

「いえ、好きでやっているので」

トーリスはきっと知らないと思う。
私のこの行動は下心がある。
雇われのお手伝いである私が大好きなトーリスと二人きりになれる口実。

「そう。ならいいんだ。俺もnameとお茶するの好きだし」

にこりと微笑むトーリス。
私の下心を知ったら怒るだろうか?
少し不安に思うけれど、そんな気持ちはトーリスの「好き」という言葉に相殺される。

「今日はパウンドケーキを焼いてみました。紅茶はレモンかミルクをいれますか?」

「じゃあレモンをお願いしようかな」

「はいっ」

二人分のカップに紅茶を注ぎ、トーリスのカップにはレモンをいれる。
トーリスが机を離れてソファへ腰掛ける。
私はその前にあるミニテーブルへカップとケーキを置き、トーリスの隣りへ腰掛けた。
「それじゃ、いただきます」

「召し上がれ」

ケーキを口へ運ぶトーリスをまじまじと眺める。
今そのケーキになりたいと思うゲンキンな自分もいない訳ではない。
トーリスがこちらを見てふわりと微笑む。

「うん、美味しい」

つられて私も笑顔になる。
トーリスに喜んでもらえることは、仕える者としても私個人としても嬉しい。
無意識にトーリスを見つめ続けてしまっていたらしく、彼は微笑みに困惑を混ぜていた。

「えーっと…name?そこまで見られると照れるんだけど…」

「あ!すみません…!!」

慌ててカップを手に取って紅茶を口にすると笑い声が聞こえた。

「謝らなくていいんだけどね。嫌ではないから」

そんなこと言われたら凝視したくなる。
本当に優しいんだから。


「あの…トーリス……」

「あ、今日も持ってきたの?いいよ、教えてあげるから」

「ありがとうございます!」

私は毎日ここへティータイムにだけ来ているのではない。
もっと一緒に居たいから、トーリスに英語を習うことにしたのだ。

台車から本を持って再びトーリスの隣りへ。

「よろしくお願いしますっ!」

「うん。昨日の続きからね」

トーリスパラパラと本をめくった。

アメリカに居候していたこともあってトーリスは英語が上手だ。
アルフレッドさんの所の英語だからアーサーさんの所とは違うけどね、と言っていたが外国語に疎い私にしてみれば英語は英語。
喋れるトーリスはすごいと思う。

「ここは…だから、訳さないでね。」

「はい。じゃあ……――」

「そう。よく出来たね」

まるで私を子供のように撫でる。
ひとつ理解できる度に頭を撫でてくれるのが嬉しくてたまらない。
トーリスがくれるご褒美。
それがあるから英語の勉強が捗るのだ。
たとえそれが子供を扱うかのようなものであっても、だ。

「あ、違う違う。photographer。toにアクセントがつくの。もう一度読んでみて?」

「えっと…」

「photographer」

「…photographer」

「よくできました」

再び撫でてもらえた。
幸せに顔が緩む。
トーリスを窺えば、優しく笑っていた。

「トーリスは発音綺麗ですよね」

「発音次第では意味も違っちゃうからね。だからしっかり教えてあげる」

「ありがとうございます」

もし私が良い家系のお嬢様さだったら、家庭教師にはトーリスが欲しいな。
これだけ丁寧な人はそうそういないと思う。
ご主人様に教えてもらうメイドってなんだか優越。


「はい、今日はここまでにしようか」

楽しい時間はあっという間。
もう一時間は経ってしまっているだろう。
あーあ、もう少しこのままでいたいのに。

「ありがとうございました。時間を割いていただいて…」

「ううん、いいよ。続きは明日やろうか…」

トーリスの視線を追うと台車の上にある一冊の本。
私が今読んでいる恋愛小説と言われる本だ。

「あ…」

「nameは本当に本が好きなんだね。どんなの読んでるの?」

私が答える前にトーリスは本を手に取って目を通し始めた。
男性に自分の読んでいる恋愛小説を読まれるのは気恥ずかしくて、ちょっと居心地が悪い。
じっとしていられなくて立ち上がってカップを下げた。
直後本を閉じる音がした。
「nameはこう言うの読むんだね」

「え…は、はい……」

「俺も好きだけど。ロマンチックだよね。男が恋愛小説だなんて変かもしれないけど…さ」

今度はトーリスが居心地悪そうだ。
照れてるトーリス、可愛い…。

「いえ!そんなことないです。むしろ私、トーリスと同じ趣味があることが嬉しい、です…」

「本当?俺も嬉しいな」

なんだか照れてしまう。
鼓動が五月蠅い。
きっと顔が赤いだろう。
そんな情けない顔、見せられない。


「で、では、私はこれで失礼します…!」

部屋を後にしようと台車を押す。

「待って」

足を止めて振り返る。
トーリス…近い…近いです…!


――ちゅ。


唇に触れる、温かい優しいもの。

「―――っ!?」

思考が完全に停止してしまった。

「明日も、来てくれるね?」

「…はい」

トーリスの顔が直視出来ない。

「あ…お茶菓子は…」

俯いたまま呟くと、トーリスが屈んだ。
否応なしに目が合う。

「一緒に作らせてくれる?」
「はい。喜んで…!」

不細工な顔になっているだろうか。
上手く動かない表現で微笑んだ。





あとがき
湶莉さまお待たせしました!
お待たせしてしまい申し訳ありません…。
ほのぼのを目指して書きましたがなんだか甘い感じがします…すみません><
こんなのでよければ貰ってください!
リクありがとうございました。
12*27

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あきゅろす。
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