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悪魔の取扱説明書
5.悪魔の意外な一面
体育祭当日。
俺は前日にずぶ濡れになったせいで、少し風邪っぽい。

棒倒しの大将だなんて俺には荷が重すぎて憂鬱だし、風邪による体の気怠さがプラスされて気分最悪。
でも母さんは朝から気合い入れてお弁当にかかりっきり。
とても休みたいだなんて言える雰囲気でもなく、獄寺くんたちが迎えに来る時間となった。
はぁ…。


「10代目!!今日の棒倒し、俺が全力であなたをお守り致しますのでご安心くださいっ!」

獄寺くんは意気揚々と息をまいているし、山本も"気合い入るなっ!"と楽しそうだ。
俺はというと、ただ渇いた笑いを漏して大きくため息をつくしかない。


「朝から元気がないな、沢田」

リンとした声が俺の名前を呼んだ。
気付くとそこには小森先輩がカラーコーンを持って立っているではないか。
綺麗な顔立ちしているものだから、ジャージがどうも不釣り合いで顔だけ浮いているように見える。

「お…おはようございます、小森先輩」
「うん、おはよう」

山本と小森先輩が挨拶を交わしている間、俺は獄寺くんをチラリと見たが、彼は眉を顰めては、彼女からプイっとそっぽを向いてしまった。

相変わらず小森先輩とは上手くいってないらしい。
と言っても、二人の関係が深まればいいと俺が勝手に思っているだけで、本人たちは全くそんなこと考えてはいないのだろうけど。


「ソレ重そうっすね。手伝いますよ」

ヒョイっと山本が小森先輩からカラーコーンを奪い取ると、彼女はパァと顔を輝かせた。何やら他にもやることが山積みらしく、と実は困っていたらしい。

こんなこと聞いたら、手伝わないわけにはいかないじゃないか。

「俺たちも手伝いますよ。ね、獄寺くん!」

「まぁ…10代目がそうおっしゃるなら」

彼も渋々と頷く。

小森先輩は本当に嬉しそうに“悪いな“と言った。






「これをファイルに詰めておいてくれないか?」

「あ、分かりました。」

山本と獄寺くんはカラーコーン運び、俺と先輩は生徒会室にある資料を本部テントまで運ぶことになった。
生徒会室に入ったのは初めてだけど、ものが多いわりにはきちんと整頓されていて驚きだ。

「そうだ、沢田。これ飲んどけ」

そう言って渡されたのは一本の栄養ドリンク。
あれだ、よくCMで“ファイトー!!いっぱーつ!“と言ってるヤツ。

俺は驚いて目を瞬かせていると、先輩は少し伏せ目がちにポツリと呟いた。

「きょ…今日はなんだか顔色が悪いからな。棒倒しの大将が体調悪いんじゃみんな心配する」

さぁ!飲んだら急いで本部テントに運ぶぞ!!

そう言って先輩は先程より慌ただしく資料をまとめ始める。
何枚か資料を落として慌てているところを見たら、いつも毅然とした先輩の意外な一面を見た気がした。


***


アイツと10代目を二人きりにさせてしまうだなんて、右腕として最大失態だ…!!
小森は口は悪いは、平気で男に拳骨をお見舞いするようなやつだ。
10代目にどんな失礼なことをしでかすか分かったものではない。

俺は一秒でも早く10代目の元に戻るために、この憎い赤い塊を抱えながら走った。

「獄寺、相当気合いはいってるのなー」

いつもならここで突っ込みを入れているような場所なのだが、今はこの野球馬鹿に構っている暇はねぇ。
無視して足早に運んでいると、山本は何やら面白そうに笑ってこう言った。

「小森先輩とツナが二人っきりだからって、ツナに妬きもちやいてるのか?」

思考一旦停止。
抱えていたカラーコーンも手から抜け落ちて、音をたてて地面に転がった。

10代目に妬きもちだと…?

「…はぁ!!???んなわけあるはずねぇだろうがっっ!!!」

意味がわかんねぇ!
むしろ、小森に嫉妬ならまだ分かるが、10代目に万が一でも嫉妬なんてありえねぇし!!!
てか、何に対しての嫉妬だよ!?

「おいおい、カラーコーン落ちてるぜ?」

真っ赤なカラーコーン。
真っ赤な顔の俺。

そう言って山本はまた笑った。
俺のイライラ度MAX。
ありったけのボムを懐から出した。

「マジで殺す…!!!!!!!!!」

「騒ぐな・喚くな・暴れるな」

こうして俺は、いつの間にやら背後にいた小森にポカンと殴られた。
強くは殴られてはいないが、地味に痛いし、10代目は小森の後ろで苦笑なされている。

…マジで最悪だ。


【5.悪魔の意外な一面】


彼女だって女の子
恥ずかしがることだってあるんです。


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あきゅろす。
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