悪魔の取扱説明書 9.悪魔との取り引き 俺は人気の少ない校舎裏。 ひんやりと空気が冷たい11月。 俺は冷えた指先を外気から少しでも守ろうと、カーティガンの裾を伸ばした。 10月31日の例の出来事の次の日。 小森は例の飴を持って、不吉兆面で謝ってきた。(今思えばあれは照れ隠しだ) あれからは特に状況が変わることはなく、俺は相変わらず10代目のお側にいて、小森は生徒会で忙しそうにしてる。 屋上でサボっていると、小森のクラスがちょうどよく見える。 窓側の席のアイツは、俺らのクラスが校庭で体育をやっているとヤケに外を見る回数が多くなるのを俺は知っている。 きっと10代目を見ているのだろう。 なぜ、あいつが10代目の思いを必死にひた隠しするのかは分からねぇ。 …そもそも俺の知ったことではないしな!! 煙草をくわえて火をつけようとした、が。 上から手がにゅっと延びてきて、煙草を取り上げられてしまった。 「学校で煙草を吸うな、不良少年」 この声は間違いねぇ。 ヤツだ。 「…返せよ」 窓から身を乗り出している小森を睨みつけるが、コイツに効くはずもないのは分かっている。 「法を無視していいと考えるならば、煙草を絶対吸ってはいけないとは私は思わない。もう14歳だ、自分で考えて判断して、リスクを負うくらいの自己の管理と責任を持つべきだ。だが、ここは"学校"だからな」 ヤツ曰く、親や国がお金を負担して"知識やマナーを学ぶために"通わせてくれているのだから、個人の自由はあるとは言えども社会に属している以上、存在するルールはある程度守るべきなのだという持論らしい。(伽藍占めになるのもよくない、と付け足していた) 「というわけで、これは没収」 小森はパッケージをチラリと見て少し微妙な顔をしたが、すぐさまセーターの胸ポケットに煙草をしまってしまった。 「…本当は副会長として先生に報告するのが義務なのだが、おまえに頼みたいことが一つあってな。」 その頼みごとだと…? 本当はそれが狙いだったんじゃねぇか。 「別にセンコーにチクればいいだろ。別に説教なんて慣れてるしな」 こいつの思い通りにことが進むのは面白くない。 俺はもう一つポケットに忍ばせておいたタバコの箱を取り出したが、その箱までも取り上げられて、ヤツは続けてこうも言った。 「どうやら生活指導の長山先生はオマエに相当ご立腹のようだぞ」 あぁ、毎回呼び出しくらってもサボってたからな。 あいつの説教はねちっこくって、変態くせぇし。 こいつはこんなことで俺がビビるとでも思ってんのかよ? しかし、腹立つことに小森は俺より一枚上手だった。 「今度問題を起こしたら首輪つけでも引きずって、一週間毎日50ページずつ反省文書かないと帰さない、と言っていたらしい」 "このまま今の生活態度を続けてみろ。ここまで怒らせたら、おまえの周りにも影響が出ないとは言いきれないぞ。゛ …確かに長山の野郎は変態だが、妙に頭の回るやつだ。 俺が慕っている10代目に目をつけて、何かしでかす可能性もある。 だからと言って、一週間毎日10代目と一緒に帰りを共にできないというのも困る。(右腕失格だ…!) そんな心中を全てお見通しとでも言うかのように、コイツは楽しそうに頬杖をついて笑った。 「取引だよ、獄寺隼人。もし頼みごとを聞いてくれるなら今回のことは話さないし、長山先生には私から取り持っておく」 悪魔というのは本当に魅力的な条件をつけてくるもんだ。 行く手を阻まれた俺はこうして悪魔の手中に嵌っていくのだ。 「…頼みごとって何だよ」 不本意中の不本意だが、こいつの取引に応じるしかない。 そして悪魔がつけてきた条件は、予想もできないものだった。 「私とデートしろ、獄寺隼人」 【9.悪魔との取り引き】 少し震える手は、 緊張のせいなんかじゃなくて、 冷え切ってしまったからだと、 "自分に言い聞かせる" [次へ#] |