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つぼみの花
暴走するもの
ヴァリアーもチェルベッロも、もちろん獄寺くんたちも。
みんな、みんな、口をあんぐりと開けていた。
たぶん驚いていないのは、私とマリアとザンザスだけ。

私はクロームの隣でこの試合を食い入るように見ていた。

これが雲雀先輩の本気だ。
無駄な動きは一切なく、一瞬にして相手の懐に潜り込み急所を狙う。
私は思わず賞賛の拍手を送りたくなった。


雲雀先輩はマリアとザンザスに向かって言い放つ。

「さぁ降りておいでよ、昨日の君たち。猿山のボス猿を咬み殺さないと帰れないな」


マリアは"あらあら"と笑い、ザンザスもまた勝ち誇ったように笑う。

これだ。
これが違和感の原因だ。

なぜこの人たちは負けたというのに、笑っているのだろう。
まだ何か隠し持っている。
そう予感した。

私はいざという時ように、ロッドに手をかける。



ザンザスはフィールド内に"ガラクタの回収"と理由で入った。
雲雀先輩はそれを黙って見ているはずもなく、けしかける。

先ほどの戦いより、さらに激しい攻防が始まった。
しかし、ザンザスは手を出さず、雲雀先輩の一方的な攻撃だ。

私はハラハラしながら見守った。

何かが。
きっと何かが起こる…!!

ロッドを握り締める手が汗ばんでいく。

「チェルベッロ、この一部始終を忘れんな。俺は攻撃してねぇ」


ハッと気づいた時にはもう遅い。
倒されたはずのゴーラモスカがいきなり動きだし、無差別に攻撃し始めたではないか。

私は近くにいたクロームを抱きよせ、砲弾から避ける。
砂埃が舞い、木は倒れ、校舎も崩れ落ちていく。

逃げ惑う私たちを尻目に、彼は大きな声で言った。

「言わんこっちゃねぇ。俺は回収しようとしたがそれを向こうの雲の守護者が阻んだ。奴のせいでモスカの制御が利かなくなっちまった」

高笑うザンザスを私は睨みつけ、叫んだ。

「これが狙いだったのね!ザンザスっっ!!!」

鼻っから勝負に関わらず、ゴーラモスカを使って全滅させるつもりだったのだ。
だから雲雀先輩を挑発した。

私はロッドを振り払って伸ばすと、炎に囲まれたザンザスの元へ飛び込んでいく。

「井ノ原!!」

獄寺くんたちが止める声が聞こえるが、形振りかまっていられない。
この人を止めない限り、この戦いは終わらないのだ。

ロッドを大きく振り被り、ザンザス目掛けて下ろそうとしたが、それは叶わなかった。
なぜなら…

「あなたの相手は私よ、真尋」


次の瞬間、金属と金属がぶつかる音が鳴り響いた。
そしてマリアが鎌を振り払うと、私はその勢いで飛ばされる。
なんとか空中で体勢を取り戻し、着地する。


どうしようなどと考えている暇はない。

私は邪魔になる髪を一纏めにするとリボンをとり、ボタンもいくつか外した。

「お相手します」

私は構えると、彼女は"嬉しいわ"と鎌を振るう。

モスカが放った圧縮粒子ビームが合図。
彼女は地を駆け、私は身構えた。
だが、いきなり後ろに引っ張られて体勢を崩してしまう。
獄寺くんだ。

彼はダイナマイトを彼女に放ると同時に私を抱えてその場を離れた。

「ちょっと…!獄寺くん!?邪魔し「お前にはあいつは無理だ!」

もちろんダイナマイトなんて彼女にはなんの障害にもならない。
重そうな鎌を意とも簡単に大きく振りかぶると、無数のダイナマイトは無残にも真っ二つなって地面に落ちた。

「化け物かよ…!!」

まさに人の動きとも思えない速さで、追って来る。
真紅の瞳はギラギラと光っていて、さながら獲物を狩る獣のようだ。


―ピピピ

逃げ惑う中、地雷の上を通過したのか音が足元で聞こえた。
必死に避けるが爆風で私と獄寺くんは揃って吹き飛ばされてしまう。


マリアはすぐそこ。
山本くんや、笹川先輩が助けようと駆け付けているがどうにも間に合いそうにない。
このままでは二人とも殺られてしまう…!!

反射的に私はロッドを思いっきり振って、獄寺くんを弾き飛ばした。
マリアはニヤリと笑い、ターゲットを私の首へと絞り込む。
恐怖のあまり悲鳴さえも飲み込み、私はただ無情にも振り下ろされる鎌を見つめていた。

しかし、いきなり視界が何かに遮られる。
その何かの向こうでは、私を襲うはずの鎌が吹き飛ばされるのが見えた。


「マヒロから離れろ」

その姿を、声を聞いて、みるみるうちに涙が溢れる。
一生懸命涙を拭い、掠れた声で彼の名を呼ぶ。

「綱吉…!!」

彼の炎はとても明るく、私を照らす。

綱吉がいる。
ただそれだけで、絶望的だった状況を一変して変えてくれるような気がした。


マリアを見ると、彼女は大層不機嫌そうに眉を顰めている。

"私を構う前に、モスカの暴走を止めなくていいのかしらね、沢田綱吉?"

綱吉を睨みつけると、鎌を拾ってザンザスの元へと戻っていく。
彼は手に再び炎を灯し、今度はモスカ目掛けて飛び出していった。


私はただ、彼の後姿を見守るしかできない。

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あきゅろす。
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